そういう背景が今のプロレスにも、もう少しあっていいと思うんだ。今は試合が始まると同時にずっと動いてなにかしていないとお客さんが満足しないから難しいけどね。それと同時に、じっとにらんでいるだけで様になるような風格と貫禄を持ったレスラーがいるかといったら……。今のレスラーでその可能性がありそうな選手は誰かって? それは言わないでおくよ! いろいろなことに関わるからね(笑)。
とはいえ、やっぱり今のレスラーも頑張っていますよ。レスラーはリングに上がって、ファイトマネーをもらう商売だけど、やっている選手はみんなお金のことだけじゃなく、夢を持って頑張っていると思う。俺はプロレスという調味料が世に必要だと思っているし、自分の身を削ってやる職業にプライドを持ってやってほしいと思う。
プロレスの魅力を極端に言えば“肉体のせめぎ合い”。これを見せて、さらに多様な空中殺法や新しい技術が開発されて、ファンがそれに魅了される。プロレスの歴史はこれの繰り返し。ほかのジャンルでも長く続いているもの、例えば古典落語もそう。漫談はどんどん変わっていくけど、落語は古典という基礎があって、その基礎の上に枝葉を付けていくのがいい落語家。いい落語家というのは古典をしっかり覚えていて、漫談も面白いでしょう。(春風亭)小朝さんなんかも古典の土台があったうえで、マクラに時代考証を取り入れて自分の中で消化して、絶妙に面白くしているよね。小朝さんの高座を生で聞くというのが今の俺の夢なんだ。
落語は30歳をすぎてから(三遊亭)円楽さんと付き合うようになって聞き始めて、同じ話でも演じる人によって聞く方の受け取り方や感じ方が違うのが分かったんだ。これってプロレスと一緒で、同じ技でも使うレスラーによって技の印象や観客の受け取り方が違うもの。円楽さんもプロレス好きだし、落語と通じるところがあるのかもしれない。プロレスを見ながら感じたことを落語に取り入れたりしてね(笑)。