50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、突然患った大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。2月2日に迎えた70歳という節目の年に、いま天龍さんが伝えたいことは?今回は「これからのプロレス」をテーマに、飄々と明るく、つれづれに、そして現役レスラーへの感謝も込めて語ります。
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ちょっと前に、藤田和之選手と潮崎豪選手が無観客試合で30分以上にらみ合ったままの試合が話題になっていたね。試合開始から約30分間、二人ともずっとにらみ合いをしたままで動かないという、これまでにない試合だったけど、これは(アントニオ)猪木さんからの薫陶を受けた藤田選手と、三沢(光晴)選手から薫陶を受けた潮崎選手の二人だからできた試合だと思うよ。猪木さんの下にいた藤田選手がプロレスを離れて総合格闘技に出たりしてまた戻って。潮崎選手は三沢選手から“四天王プロレス”を受け継いだ王道的なスタイル。同じプロレスでも正反対にいた二人がどう絡むのか? と注目された試合でお互いの気持ちをぶつけ合う「心の序段」が、30分にも及ぶにらみ合いになったわけだ。今は「こういう試合もいいじゃないか!」という人と「なんだよ……」と思う人が半分くらいだと思うけど、これからそれの比率が変ってくるんじゃないかな。「プロレス」というものをこうして語るきっかけにもなった試合だと思う。
元祖無観客試合といえば、猪木さんとマサ斎藤さんが戦った「巌流島の戦い」(※)だよね。この当時は生放送が主な時代だったもんで、無観客試合をやると聞いたときは漠然と「変ったことやる人だな。観客もいないし、大変だろう」って思ったよ。試合の話を聞いたときの興味は70パーセントくらいだったけど、やっぱり「何をやるんだろう?」って気になって見るよね。
あの試合も猪木さんとマサさんだからこそできた、テレビで見ているファンを飽きさせなかった試合。今の世代のレスラーたちがやっても“説得力”がないと思うんだよね。どういうことかというと、あの頃の猪木さんの新日本プロレスを背負っている背景とかそれにまつわる人間関係とか、マサさんのプロレスラーとしての生き様、人生模様を俺たちの世代やちょっと後までの世代は把握していたからこそ、無観客で戦うことを納得して見られたわけだ。二人の生き様、お互いの思いがあっての戦いに、俺たちやファンもいろいろ思いを重ねながら見ていたんだね。それを知らなかったら「なんだよ、これ」って言うでしょうね。見る人を選ぶ試合ですよ。