コンサルティング会社に勤務する桜田慎吾さん(34・仮名)も、利用者の一人。3LDKの自宅で妻と3歳の娘と暮らしている。自室もあるので、ほとんどの業務は自宅でこなせるが、問題は新規の提案書作成など高い集中力が求められる業務。家族の気配を感じる場所では思考がまとまらないという。
外に場所を求めてみたが「カフェは人の声が気になるし、コワーキングオフィスは、家からの距離や料金プランで条件が合わない」と話す。そんな折、加生さんの試みを知る。
「私はその店の常連だったので、少しでも力になれればという思いもありました」と桜田さん。店内は、三密にならないように同じ時間帯の利用者は2人程度に制限され、換気にも配慮されていた。意外だったのが、カウンターの高さがパソコンを操作するのに適していたところ。
「集中したいときに、近所にこういう場所があるととても助かります。今後の情勢次第ではありますが、また利用したいですね」
■近隣の仲間と困難を乗り越える
近隣住人と連携して、在宅勤務困難を乗り越えている人もいる。建築関係でインテリアの企画やデザインを手掛ける須田直樹さん(43)は、妻と小学二年生の娘と3人で暮らす。
自宅リビングの一画に夫妻の仕事用スペースがあるものの、テレビ会議のスケジュールが重なると互いの声が入ってしまう。娘が習い事のオンラインレッスンを受けることもあるので、働く場所のオプションを増やす必要があると判断。
そこで、徒歩圏内にある友人の設計事務所に間借りを申し入れ、さらに自宅マンションの集会室が使えることにも気づいた。自宅、設計事務所、集会室の3カ所を家族とスケジュール調整しながら利用することで、在宅勤務困難者にならずに済んでいる。
さらに、近所の子育て仲間も在宅勤務で困っていることを知り、設計事務所に橋渡しをする。事務所の鍵にはスマートロックを取り付け、遠隔で施解錠できるように工夫。スケジュールもウェブ上で共有し複数人で同時に事務所を使わないようにしている。
「困っている人はたくさんいる一方で、使えるのに使われていない作業スペースはまだまだあることがわかってきました。バーやスナックだけではなく、スモールオフィスの一角など、都心はバリエーションが豊富。これからは、“眠れる資産”を有効活用するための活動をして、地域に貢献していきたいですね」
(文:カスタム出版部)