在宅勤務が本格的に始まった4月。作業スペースがない、同居人がいて業務を遮られるなどの理由により、家で仕事ができない“在宅勤務困難者”が続出している。それから約一カ月、都心では困難者を地域主導でサポートする動きが少しずつ始まっているようだ。
IT関連企業で役員を務める内山健さん(28・仮名)の勤務先で、最初に在宅勤務の指示が出たのは2月。育休中の妻と生後3カ月(当時)の子どもと同居しており、自宅近くのカフェで業務をこなすことが多かったという。
状況が一変したのは4月に入ってから。会社が自宅以外での業務を禁止したのだ。自宅には、リビングのほかに寝室が一部屋あるが、4月からテレビ会議が急増。30分単位の会議が切れ目なく一日15本以上入るため、家事と育児に追われる生活空間での勤務がさらに困難になった。
■“役員室”は半畳のクローゼット
そんな内山さんが目を付けたのが、リビングとドアで仕切られたウォークインクローゼットだ。作業スペースをつくるために、ハンガーパイプにかかっていた自分の服の大半を処分。空いたスペースにノートPCを置く小さな机を新調し、わずか半畳ほどの“役員室”を急造した。
「通勤時間がなくなり、仕事の量や質は高まっている実感があります。ただ、あまりにも狭いので、議論が白熱すると酸欠で息苦しさを感じることも…。一日中、クローゼットにこもっているので、妻にも心配をかけてしまっています」
子どもを預ける予定だった保育園からは、家庭での保育を要請されており、しばらくはこの状況が続く。
「引っ越しは急には難しい。テレビ会議の数を減らすなど、働き方を工夫していく必要を感じています」
■地域で困っている人同士を掛け合わせる
在宅勤務困難者の課題を、地域で解決できないか。そんな動きも出てきている。東京・渋谷のまちづくりプロジェクト「渋谷をつなげる30人」を運営する加生健太朗さん(39)は、まず在宅勤務困難者の現状を知ろうと4月下旬、約70人にアンケート調査を実施。その結果、家族の存在や作業スペースなどでの問題を抱えながら仕事をしている人が7割程度いることがわかった。
「とくに子育て世帯の多くは、なんとか仕事をこなしているというのが実際のところ。近所に作業スペースがあれば使いたいという人も半数以上いました」と加生さん。外出自粛が続く状況下では自宅外での作業は難しいが、「在宅勤務の流れは今後も続き、定着していくでしょう。作業スペースの確保は地域としても取り組むべき課題になると思います」と予測する。
加生さんが直近で注目しているのは、営業自粛を要請されているバーやスナック。
「レストランは、テイクアウトやデリバリーなどに挑戦できますが、アルコールが主体の店は難しい。地域で困っている店と、困っている在宅勤務者を結び付ける試みを始めています」
日中のスナックを仕事場として使ってもらう。意外な組み合わせではあるが、試験的に実施してみたところ利用者からは好評だという。