友達に相談したら、みんながみんな「そんな旦那とは別れちゃいなよ」と言ったそうです。実家にもそう言われているそうです。菜美恵さんも別れたいなら、当然カウンセリングにおいでにならないはずなので、別れたくない気持ちが相当程度あるはずです。
菜美恵さんが別れたくないのだとしたら、相談した誰もが別れたほうがいいというのですから、菜美恵さんも四面楚歌な状態に追い込まれています。
幹人さんの気持ちの話に戻ります。幹人さんのお話を丁寧にお聞きすると、菜美恵さんを好きな気持ちは実は昔と変わらずある。同時に結婚前の交際時から菜美恵さんが幹人さんに菜美恵さんのやり方や理想を押し付けてくるのが嫌だったそうです。でも、好きだから乗り越えられると思って結婚されたそうです。しかしやはりどうしても耐えられないのだそうです。別居という手も考えたそうですが、別居中はいいかもしれないけど、同居したらまた同じ問題が生じるわけだから、結局、一生同居できないというのが論理的な結論で、それでは結婚している実質的な意味がないと考えたそうです。だったら籍を抜けば「他人」なのだから、「夫だから」「結婚しているのだから」という束縛から逃れられて、仲良く暮らせるのではないか、というのが幹人さんの考えだということがわかりました。
浮気についても、あの時その彼女が助けてくれなければ自分はあの時死んでしまったかもしれないと今でも思っていて、妻が傷ついたのはわかるし、わかってもらうのは無理だと思うけど、自分としてもどうしようもないことだったから究極のところ悪いことだとは思っていないといいます。そして離婚して誰と付き合うのも自由という状態になれば、妻のことが一番好きなので、逆に浮気なんかしないと思う、ともおっしゃいました。
部外者から見れば錯綜した考えのようにも見えますが、ご本人としては(妻は変わらないという)与えられた環境の中で精一杯考え抜いて、(菜美恵さんと一緒に生きていたいという)自分の望みを叶える一縷の適応の道として藁をもつかむ思いなのだろうと思います。
巣ごもり生活で、外出できる自由がどれほど大きく貴重なものか、実感した方も多いと思いますが、心の自由というのもこれほどまでに大きいのだ、ということを痛感したお話でした。
幹人さんの話を信じるのも、信じないのも、いい話と聞くのも、嫌な話と聞くのも菜美恵さんの自由です。ただ、カウンセラーとして言えることは、幹人さんの話は信じるに値しないけど、幹人さんの自由意思で菜美恵さんを愛して、というのは、残念ながら無理な注文だということです。
※事例は、事実をもとに再構成してあります。(文・西澤寿樹)