ただ、この問題が多くの方々にとって我が事になると、不安の高まりとともに社会の空気がギスギスしたようにも感じました。分断の問題です。

 医療関係者や専門家をやたらと攻撃的に批判するSNSも否応なしに目に入ります。「そもそもあんなところ(自分たちの近所)に病院があるから患者が近くに来るんだ」といった苦情もあれば、「医療関係者の多くも感染しているんじゃないの」といった差別的な視線が世間にあることも耳にしました。院内感染を起こしていなくても、患者のそばにいること自体、忌み嫌う人たちはいるのだなと感じました。

 私たちも当初、「患者の命を救わなきゃ」との一心で医療体制の整備に追われながら、感染症の指定医療機関だけに負担を押し付けられることへのいら立ちもありました。しかし、関係者と対話を重ね、一般病院では防御具や人員も足りず、受け入れたくても受け入れられない事情があるのもよくわかりました。経済問題が大事だということもよく理解しています。

 それであらためて、この病気ってとんでもないな、と気付いて圧倒されたんです。

 社会をひっくり返すような感染症は、私が知る限りありません。未知の脅威に直面すると、医療現場だけでなく社会全体が混乱し、疲弊させられることを肌で知りました。

 新型コロナの全体像はいまだによくわかっていません。いままでのウイルス感染症と違って複雑で一筋縄ではいかない、と強く感じます。

 治療の一番の難しさは、誰が重症化するのか、まだよくわかっていない点です。治療方法はまだ確立されていません。治療薬の治験も進んでいますが、効果の見極めには慎重さが必要です。人間の体は自然免疫で十分対応できないと獲得免疫が動くわけですが、その一部であるサイトカインという物質が異常に分泌されるなどして獲得免疫が暴走することで重症化する実態がわかってきました。この免疫を抑える治療方法の検証も進めています。

 新型コロナをめぐる動きは日々変化しています。行政の対応や社会の反応もどんどん変わっていきます。この問題は終わっていないのです。そうした日々の変化もしっかり受け止めながら、医療を持続していかなければと思っています。社会を分断する怖さももつ感染症が課す試練を、私たちがどう乗り越えていくか試されているようにも感じます。

(構成/編集部・渡辺豪)

AERA 2020年6月22日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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