この交渉では、旧恵比須堂からワークハウス側へ建物や生産設備を売り渡すことになった。売却額は事業引継ぎ支援センターのマッチングコーディネーターが、専門的、第三者的立場から算定。「公平で客観的な評価で受け入れやすかった」と、中道氏も嶋田氏も振り返る。
こうして18年5月、引継ぎは成約した。具体的交渉が始まってから2カ月のスピードだった。
中道氏は現在も相談役として、週4日程度えびす堂で働く。ワークハウスからのワーカーに指導したり、配送を手伝ったり、新商品開発にアドバイスしたりの日々だという。旧恵比須堂の雇用や取引先は守られ、ワークハウスは障害者の働く場を拡大できた、事業引継ぎとなった。
「センターに寄せられた引継ぎ希望案件はデータベースに登録され、各センター同士のほか、登録した金融機関や税理士、中小企業診断士などの士業の方に共有されます」と宇野氏。
こうした情報共有が、売り手買い手の人脈を超えた紹介を可能にする。えびす堂のケースも、同センターなしには実現しづらかっただろう。中には都道府県境を超えた引継ぎ成約もあるという。
「漠然と後継者のことが不安といった状態でも、まずは遠慮なくセンターに相談してみてほしい」と、宇野氏。
センターに相談して良かった点として「今の段階でまずは何から手を付ければいいのか、道筋がわかった」といった声があるという。
「外部への売却ありきということはありません。じっくり話を聞いた結果、まずは社員や親族の後継者候補に、ちゃんと話してみようとなることもあります」(宇野氏)
先に触れたように、後継者問題は、経営者にとってなかなか人に相談しにくいデリケートな話だ。センターへの相談は守秘義務が守られる上、中小企業の経営に精通した専門の相談員が対応してくれて、しかも無料。一人で悶々と抱え込まず、まずは相談してみるのが良策だろう。(ライター・五嶋正風)
※週刊朝日 2020年7月17日号