攻めの経営をモットーとしてきた中道氏は、毎年のように新製品を発表することを自らに課して、営業から開発、配送と一人で何役もこなして奮戦してきた。
「それが60歳を超えたあたりから、毎年新製品を考えるのがしんどくなってきました。守りに入るようになったのです」
子どもはそれぞれ独立し、仕事がある。親族や社員にも後継者は見当たらない。そうして中道氏は2015年ごろ、まず福井商工会議所に相談、案件は福井県の事業引継ぎ支援センターへ共有された。
なかなか後継者候補は見つからなかったが、最初の相談から2年が経った17年冬に現れたのが、福井市の有限会社、ワークハウス社長の嶋田祐介氏(34)だった。
ワークハウスは主に精神障害者の就労支援事業に取り組んでいる。近隣の工場に登録ワーカーを派遣したり、自社で経営する飲食店や農園で働いてもらったりしており、現在はえびす堂で働く4人を含む、約60人が登録している。
同社は嶋田氏の父が58歳のとき、勤めていた社会福祉法人を脱サラして創業した。ところがその父は、60歳で急死してしまう。
生前、父から会社を手伝ってほしいと頼まれたことがあった。だがそのときは、自分も別の事業の経営をしていたこともあって、断ってしまった。父親が亡くなって「このままでは父がこの世に残した会社が消えてしまう」と思い直し、15年に経営を引き継いだのだった。
「障害者と健常者の壁をなくせるような働く場をもっと増やしたいと、M&A案件を探していた。取引のある信金に相談すると、恵比須堂さんを紹介されました」
和菓子工場を見学した嶋田氏が、様子を登録ワーカーたちに報告すると、「やってみたい」という声が上がったので、交渉を進めることにした。
中道氏は、経営の状況や帳簿などを包み隠さず嶋田氏に説明。お互いに腹を割って話せたことが、交渉を早く進展させたと振り返る。中道氏が引継ぎに際して出した条件は、「けんけら」を作り続けること、従業員の雇用や取引先の維持などだったが、嶋田氏は、「登録ワーカーに仕事を教えてもらい、事業を継続するためには、むしろ願ったりな話でした」と話す。