たしか和歌山での巡業だったと思うけど、大雨が降って中止になったとき、勧進元がヤケクソでずぶ濡れになって土俵に座って酒を飲んでいたことを覚えている。地方巡業を買うというのはギャンブルだね。400人以上の関係者の旅館をおさえるだけでも大変。だから勧進元は「少々の雨はやるぞ!」って言うし、こっちは「えー、やるのかよぉ」って文句言って(笑)。
地方巡業は心身が鍛錬されるよ。とにかく辛いから「偉くなって迎えの車で旅館に行けるようになろう」っていう気持ちが芽生えた。若手は関取が泊まる旅館から会場まで徒歩だからね。その経験がプロレスのアメリカ修行に生きたかって? そうでもないよ(笑)。あれはあれで別の大変さだ。
プロレス時代も夏はとにかく暑い思い出ばかりだね。夏は冷房が効いている体育館が少なくて、暑くてヒーヒー言いながらやったという思い出しかない。体育館は冷暖房代がかかるから、「レスラーはどうせ汗かくんだから冷房なんか入れなくていい」っていう興行主が多かったかな! 今はさすがに冷房を入れてくれるけど、当時はそもそも冷房が無いところも多いし、つけてくれない人も多かった。夏は暑く、冬は寒いのがプロレスだ。
暑さ寒さだけじゃなく、田舎の興行師が巡業を買うとリングがショッピングセンターの屋上とか、屋外の駐車場とかに設置されて、こっちも雨が降ると大変だ。(ジャイアント)馬場さんも(ジャンボ)鶴田も雨で足を滑らせてひっくり返ったりしてね、そのときのレスラーは本当にみすぼらしいよ。リングに水溜まりができて、レフェリーがカウントをとっているときに、リングを叩いた勢いで下にいるレスラーの口の中に水が入っちゃって、むせ返った勢いでカバーを外したりしてね。技で返すんじゃなくて、息苦しくて反射的に返しちゃったんだ。
結婚してからは巡業ばかりじゃなくなったね。プロレスの巡業のない時期がちょうど夏休みの時期だから、嶋田家の夏は冬木(弘道)、三沢(光晴)、楽ちゃん(三遊亭楽太郎、現・円楽)家族と国内旅行をするのが恒例だったんだ。特に冬木、三沢との旅行は嶋田家の定番。あいつらも当時は独身で「一緒に行くか」って声をかけると、うちの家族旅行についてきてた。夜になったら一緒に酒を飲んでね。懐かしいね。