2カ月で約30億円の赤字という東京女子医大だけでなく、新型コロナに対応した病院は利益が減る傾向にある。感染防止のための人件費やマスクなど資材費がかさむ。通常の患者を制限せざるを得ず、診療報酬が減少する。手術数も減り、定期健康診断も一時ストップしていた。都内では、受け入れ医療機関の9割が赤字というデータもある。
国は重症・中等症患者を受け入れる病院に3倍の診療報酬を出すと決めたはずだ。それでは補えないのか。全国医師ユニオンの植山直人代表によると、入院患者を受け入れる病院は、感染拡大防止のため、専用病棟を作ることが多い。元は4人部屋でも、実際に入院できるのはたいてい1、2人だ。
「満床になってもベッドの稼働率は通常の半分以下。感染者が減ればガラガラです。重症者に診療報酬の3倍を出したとしても、補えません」(植山代表)
さらに対応の負担自体が大きい。新型コロナ患者はいつ悪化するかわからないため、通常より多くの職員を配置して慎重に管理しなければならない。
「万が一、院内感染が起こり、職員が濃厚接触者になれば、2週間程度は外来や入院をストップしなければならない。すると、大学病院なら数億から数十億円単位の減収になります」(同)
前出の東京女子医大は、2018年度に40億円の黒字を計上している。
「決算書をみると、大学病院にしては内部留保が少ない印象があるとはいえ、一般企業よりはある。寄付金や補助金といった民間病院にない要素もあるので、すぐ潰れるということはないと思います」(税理士)
本誌の取材に対し,東京女子医大は、6月12日付けの教職員向けの文書で、上半期の賞与を6月に支給できない旨を通知するとともに、8月を目処に何らかの手当の支給を考えていると伝えていたと回答。
その後、教職員から200件以上の増収策やコスト削減などの業務改善案が寄せられ、政府の第2次補正予算によって好条件での借り入れができるようになったことで資金調達も可能になったことから、8月に「夏季賞与」を支給する方向で検討しているという。
(ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年7月27日号より抜粋