新型コロナウイルス患者を受け入れる病院の経営が悪化している。最前線で働く医療従事者たちが、モチベーションを失い始めている。AERA 2020年7月27日号から。
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「新型コロナウイルスの流行にかこつけて、ボーナスを出さないのでは」
6月12日、東京女子医科大学病院で働いていた30代の女性看護師は、労働組合だよりを読んで、怒りに震えた。大学は、新型コロナウイルスの影響で4、5月の収支が30億円近いマイナスとなったとして、医師や看護師、医療技師、事務など全職種に対してボーナスを「支給する要素は全くない」と回答していた。
関係者によると、新宿の本院と二つの系列病院は、都の要請を受けて新型コロナの入院患者を受け入れてきた。
「一般病棟でも、慣れない防護具をつけて業務にあたりました。体調が悪い患者さんが来たら、『コロナかもしれない』とピリピリしています。発熱以外の通常の患者さんは減りました。一時帰休もあり、『ボーナスも少しは下がるだろう』と、みんな覚悟はしていました」(女性)
だが、現実は予想より厳しいゼロ回答だ。
「大変でも『ボーナスがある』と思って頑張った。大学は現場に頑張れと言っておきながら、結局は人件費を削るのです。コロナをきっかけに給与も下げて、看護師を使い捨てようとしているのではないか。もう上層部を信用できない」(同)
結局、大学への不信が募り「仕事へのモチベーションがなくなった」。女性は辞表を提出した。周囲の看護師や薬剤師も何人か退職を決めたという。
同大では、看護師の退職希望者が400人を超えると報じられている。所属看護師の約5分の1にあたる数だ。だが、6月29日の組合だよりにはこう書かれている。「(大学側から)全く危機感は感じられません」
組合は「女子医大に働く看護師をはじめとする教職員は、単に『夏季一時金ゼロ』が理由で退職を希望しているのではなく、大学理事会の『教職員を大事にしない姿勢』に失望し、働き続けていく展望を見いだせなくなった」とコメントを公表した。