これは診断と治療についても言えます。東洋医学では診断を「弁証」といいます。証とは、生命場の歪(ゆが)みのベクトルだと考えていいと思います。生命場がどちらの方向にどれだけ歪んでいるかを識別するのが弁証です。
患者さんの顔色などを観察したり(望診)、声やおなかの音を聞いたり(聞診)、質問をしたり(問診)、脈をとったり体に触れたり(切診)して、弁証を行います。その結果、気が不足している気虚、血が不足している血虚、気の流れが悪い気滞、血の流れが滞っている血(けつ)おといった歪みが明らかになります。これに対して、漢方薬を処方するのです。
鍼灸(しんきゅう)の場合は、生命場の情報ネットワークである経絡・経穴の状態を診断して、鍼や灸を用いて経絡・経穴に刺激を与えることでその歪みを治療します。
いずれの場合も大まかな診断基準はあるにしても、西洋医学のように数値化されていません。すべては医師の経験と直観の賜物(たまもの)です。だから同じ患者さんを診たときに、大まかな基本的な診断は一致しても、その先は異なった処方になってしまうことが日常茶飯事です。つまり、客観性と再現性に難があるのです。しかし、その処方がピタリとはまると目覚ましい治療効果を見ることができます。
私は将来、科学の進歩によって生命場が解明され、東洋医学は本来の医学として花開くことになると信じています。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年8月7日号