桑田真澄さん(撮影:秦正里)
桑田真澄さん(撮影:秦正里)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった今夏の全国高等学校野球選手権大会。8月10日からは選抜大会の出場校による「2020年甲子園高校野球交流試合」が阪神甲子園球場で行われるが、多くの高校球児たちにとって甲子園出場という目標を奪われたことに変わりはない。未曾有の困難をどう乗り越えたらいいのか、野球界の先人たちに球児たちへのメッセージを聞いた。第2回は、プロ野球巨人などで活躍した桑田真澄さんにお話をうかがった。(週刊朝日増刊「甲子園2020」より)

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 テレビ番組で球児が「(中止の)この経験を糧にして頑張れって言われても糧にしようがない」と話しているのを見て、胸が痛くなりました。僕も高校球児でしたから気持ちはよくわかります。しかし、人生は待ってくれません。厳しい言い方ですが、糧にするしかないんです。

 高校3年生の多くがこの夏で野球をやめるでしょう。甲子園が大きな目標だったこともわかります。僕が高校3年生だったら、頭の中が真っ白になって、しばらく落ち込むと思います。でも、落ち込むだけ落ち込み、悔しがるだけ悔しがったら、力強く次への一歩を踏み出してほしい。僕なら間違いなくそうします。なぜなら、長い人生で甲子園がすべてではないからです。

 野球を通じて学んできた、さまざまなことを思い出してください。努力すること、仲間と助け合うことの大切さ、勝負の厳しさや理不尽なこと……。そして何より、「過去には戻れない」ということを学んでいるはずです。たとえば、エラーや三振、失投してホームランを打たれた。もう一回やり直しをさせてくれと言っても無理なんです。そこで考えるべきなのは、「次、どうするか」。次への一歩を踏み出さなくてはなりません。

 僕はPL学園に入学して2カ月も経たない時期に、野球をやめようと思ったことがありました。まったく通用しなかったからです。同級生を見れば清原(和博)や190センチ以上の投手もいました。明らかな体格の差があって、「子どもと大人がやっても無理やな」と感じて絶望しました。

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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