なぜ、長い歴史のなかで知られていなかった新たな感染症が次々に生まれるのか。また、新型コロナの「次」の新興感染症の危機は迫っているのだろうか。パンデミックインフルエンザウイルスの出現機構を解明したことで知られる北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターの喜田宏特別招聘教授はこう話す。
「近年発生する新興感染症はどれも、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染する人獣共通感染症です。人口爆発に伴う森林伐採や灌漑(かんがい)などで地球環境が激変し、野生動物と家畜やヒトの境界がなくなった結果、1970年ごろから次々に新たな感染症が生まれるようになりました」
野生動物とヒトの生活空間が重なり接触機会が増えたことで、動物のウイルスの一部がヒトに感染するようになったのだ。
人獣共通感染症の原因となるウイルスは、自然宿主と呼ばれる野生動物と共生している。自然宿主には無害だが、中間宿主となる家畜など別の動物に感染すると、宿主の身体で増殖しやすいウイルスが優勢になり、人間にも感染することがある。
インフルエンザを例にとると、自然宿主であるカモが越冬のためシベリアから南へ飛来し、糞便と共に排泄されるウイルスが水を介して別の鳥や動物に感染する。ウズラなどキジ科の陸鳥に感染したあと、ニワトリに広がって感染を繰り返すと、全身で増殖する高病原性鳥インフルエンザウイルスが生まれる。また、鳥とヒトのウイルスにブタが同時感染し、遺伝子再集合という仕組みによって新たに生まれるのがパンデミックインフルエンザウイルスだ。09年の「新型」をはじめ、過去のパンデミックインフルエンザはいずれもブタ由来と考えられている。
新型コロナも、コウモリだとされる自然宿主から中間宿主を経てヒトに感染するウイルスとなった可能性が高い。中間宿主はセンザンコウやヘビだとする説があるが、確定していない。ただし、特異な点もある。
「ヒトで流行するようになったばかりのウイルスは普通、伝播性は高いものの体内での増殖は緩やかです。ヒトからヒトへ感染を繰り返すうちに増殖しやすいウイルスが選ばれる。しかし、新型コロナは当初からヒトで増殖しやすく、病原性の高いウイルスでした」(喜田特別招聘教授)
インフルエンザなどの知見をもとに考えると、新型コロナウイルスは1月以降武漢で流行した段階で、既にヒトからヒトへの感染を繰り返していた可能性を示唆している。