新型コロナの猛威に震える世界だが、次の新興感染症のリスクも身近に迫っている。長い歴史の中で知られることのなかった新たな感染症が、近年次々広まる背景には何があるのか。AERA 2020年8月31日号で専門家らに取材した。
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新型コロナウイルスよりも致死率の高い、正体不明の肺炎が流行している──。
7月9日、在カザフスタン中国大使館が突如、ホームページ上にそんなメッセージを掲載、カザフスタン在住の中国人に注意を呼び掛けた。同じ日までに同国で発表されていた新型コロナウイルスによる死者は250人程度だったが、この「謎の肺炎」では1月以降1700人以上が死亡しているとしており、大きなニュースになった。
一方で、複数の中央アジア関係筋はうがった見方で証拠もないとしつつ、こんな見解を示す。
「新疆ウイグル自治区で新たな感染症が発生して、その責任を国境を接するカザフスタンに押しつけようとしたのではないか」
実際、国際感染症学会が運営する感染症モニタリングサイトProMED-mailを引用した一部報道によると、カザフスタン国境に近い新疆ウイグル自治区のチョチェク市の病院で6月、感染性肺炎の集団感染が発生し、患者や医療スタッフが隔離されたという。また、関連は不明だが、同市では6月初旬、鳥インフルエンザによるガチョウの大量死が報告されている。
結局、「謎の新型肺炎」騒動はカザフスタン保健省がフェイクと否定し、WHOも新型コロナの見落としか通常の市中肺炎ではないかとの見解を示したことで事実上終息した。新疆ウイグル自治区での集団肺炎の真偽も明らかでない。しかし、コロナ禍のさなかでの新たな流行病の恐怖に世界がざわついた。
近年、新型コロナに限らず、次々と新たな感染症が出現している。コロナウイルス関連では重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)が知られ、2009年にはブタ由来のインフルエンザのパンデミックが起きた。今年8月には中国で「新型ブニヤウイルス」による死者が増えているとの報道もあった。これは日本でも60人以上の死者を出しているマダニ由来の感染症「重症熱性血小板減少症候群」のことで今年新たに出現したウイルスではないが、00年代以降に発見された新興感染症のひとつだ。