「そこで一部の米国人が判断に用いるのが、彼らが持っている最も大切な美徳である、『タフネス』『たくましさ』『マスキュリニティー(男性性)』です。西部開拓を経て他の近代国家と違う形で発展し、たくましさを美徳としてきたアメリカ人はマスクをしなくても大丈夫だ、感染症で死ぬのは軟弱な先住民だ、という考えに至るわけです」

 こうした「マチズモ(男性優位主義)」の信奉者がトランプ氏であり、トランプ氏の支持者だったため、公衆衛生の問題が政治的な分断につながった、と馬場准教授は指摘する。

 さらに、マスクが持つ負のイメージの原因として、馬場准教授は「反マスク法」と呼ばれる法律の存在を挙げた。

 もともと米国の一部の州には、公共の場で理由なくマスクを着けるのを禁じる法律がある。これは白人至上主義団体のクー・クラックス・クラン(KKK)の活動を制限するためだとされる。こうした歴史も影響してか、マスクは病院や工事現場などで使われる以外は、好ましくないものの象徴のようになった可能性がある、という。

「その後の表象文化を見てみると分かりやすいです。たとえば西部劇に出てくる列車強盗はみんなバンダナをマスクのように巻いています。マスクで口元を隠すのは悪いやつ、というイメージがあるから多くの人たちが嫌がるのかもしれません」(馬場准教授)

 実は、反マスク運動は100年前のスペイン風邪の流行時もサンフランシスコやロサンゼルスなどで盛んに行われた。世紀を超えてまた同じ闘争を繰り返しているのだが、11月の大統領選に向けてさらに対立が激しくなるおそれもある。

 公衆衛生の問題をめぐり、政治的な志向で分断を作るのは不健全だ。しかし翻ってみると、日本のPCR検査議論もそうなりかけていないだろうか。避けなければいけないのは、「向こう側が示すファクトさえ受け入れがたい」という状況だ。(編集部・小田健司)

AERA 2020年8月31日号より抜粋

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