心臓発作による突然死は、ごくまれにしか起こりません。しかし、スポーツ中またはその後は、安静時に比べて発生率が増加することが知られています。スポーツは心臓にどのような影響を与えるのか、また運動にともなう突然死を防止するために何をすればよいのか、日本スポーツ医学財団理事長の松本秀男医師に教えてもらいます。
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スポーツがからだによいことは、誰もが知っている事実でしょう。運動をすることにより、筋力や瞬発力、柔軟性が上がり、心肺機能も向上します。スポーツは、健康維持、体力増進、運動能力の向上に役立つものです。
心肺機能が向上すると、最大酸素摂取量が増加し、効率よく酸素を取り込んで全身に送り込むことができるようになります。その結果、糖質や脂質を燃焼させて多くのエネルギーを生み出すことができるため、疲れにくいからだになって運動耐容能が向上するのです。
競技スポーツの世界では、アスリートたちが日頃からハードな練習を積み重ね、強靭な体力と優れた心肺機能を身につけています。それによって、長時間にわたって高いパフォーマンスを発揮することが可能になるのです。マラソン、陸上や水泳の長距離、サッカーなど、持久系スポーツでは、とくに心肺機能の強化をはかるトレーニングが重要視されます。
みなさんは「スポーツ心臓」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか? これは、「アスリート心臓」とも呼ばれ、継続的なトレーニングをおこなっている選手たちの心臓にみられる特徴的な変化です。
通常、私たちの心臓は、つねに休むことなく毎分60~80回の拍動を繰り返し、全身に血液を送り届ける役割を果たしています。スポーツ選手では、心拍数が毎分30~50回まで低下する「徐脈」や、胸部X線検査における「心陰影」の拡大など、心臓の変化がみとめられることが珍しくありません。これがスポーツ心臓と呼ばれる状態です。これは激しい運動に耐えられるように、心拍出量が増加する生理的適応にすぎず、自覚症状もなければ検査上の異常もないため、治療は不要です。また、スポーツ心臓は可逆的なものであり、トレーニングを停止するとやがて消失します。