一方、国内外を問わずスポーツの現場における深刻な問題として、アスリートの「突然死」があります。健康であったはずの選手が、突然、心臓発作で倒れ、24時間以内に命を落としてしまうという突然死は、私たちに大きな衝撃を与えます。心臓突然死は、推定で10万人に3人の頻度で起きており、その発生率は男性で高く、女性の6倍といわれます。スポーツ現場では、安静時の17倍まで増加するとの報告もあります。心臓突然死は、有名プロ選手やトップアスリートに限らず、健康スポーツを楽しんでいる一般人にも起こりうる問題です。

 もし、スポーツ心臓の陰に肥大型心筋症などの心疾患が隠れていた場合には、スポーツ中の突然の心停止が起こる可能性が高くなります。そのため、スポーツ心臓を、重篤な心疾患としっかりと鑑別しておくことはとても重要です。胸痛、息切れ、めまい、失神など、気になる症状があれば、必ず専門医の精密診断を受けておくべきです。また、家族歴として50歳未満で突然死した家族がいる場合にも注意が必要です。

 運動中や直後に起こる心臓突然死のほとんどは、「心室細動」という致死性の不整脈の発生によるものです。心室細動が起こると、全身に血液を送れなくなって数秒以内に意識を失って倒れ、そのまま放置すれば必ず死に至ります。若年者では肥大型心筋症・冠動脈奇形・QT延長症候群・ブルガダ症候群などの心疾患が、高齢者では動脈硬化性の冠動脈疾患が、突然死の原因となることが多いといいます。

 また、もう一つ知っておくべきものとして、「心臓震盪(しんとう)」があります。これは、硬式野球のボールやホッケーのパックなどが高速で胸にぶつかる、他の選手と衝突するなどして心臓の直上に衝撃を受けた際に、突然、不整脈が起こるものです。心臓震盪は、心臓に器質的疾患がなくても起こりえます。

 このような致死性の不整脈が起きてしまった場合、唯一の救命手段は自動体外式除細動器(AED)を用いて電気ショックを与えることです。それが1分遅れるごとに救命率は1割ずつ低下し、10分すぎると救命は困難になるといわれます。高率に救命するために、迅速にAEDを用いることが不可欠です。

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スポーツ現場における心臓突然死をゼロに