水野美紀さん
水野美紀さん
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イラスト:唐橋充
イラスト:唐橋充

 42歳での電撃結婚。そして伝説の高齢出産から2年。母として、女優として、ますますパワーアップした水野美紀さんの連載「子育て女優の繁忙記『続・余力ゼロで生きてます』」。今回はいよいよ幕が上がった舞台。これまでとは違う日常だけれど「見方を変えれば」……。

【こちらもまた見方を変えれば…唐橋さんのイラストはこちら】

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 舞台「ベイジルタウンの女神」@世田谷パブリックシアターの幕が上がった。

 劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチさんと妻の緒川たまきさんとのユニット「ケムリ研究室」の旗揚げ公演だ。

 緒川さんはじめ、仲村トオルさん、犬山イヌコさん、温水洋一さんに山内圭哉さんなどのケラさん作品常連の方々から、初タッグの高田聖子さん、菅原さん植本さん、「スカーレット」で一緒だった松下洸平くん、はじめましての吉岡里帆ちゃんなどなどのメンバーで演じる、架空の街の童話のような素敵なものがたり。

 稽古が始まった頃はまだ、コロナ禍、第二波の真っ只中。いくつもの演劇の公演が中止になっている状況で、先行きが見えなかった。

 そこから不安の中で稽古を重ねて、無事に公演にこぎつけることができたのだ。

 とはいえこれまでの公演とはかなり様変わりした。

 客席の総数に対して半分以下のお客様。楽屋への差し入れも、花もなし。

 いつもは初日ともなれば、楽屋にはたくさんの関係者が行き交って、賑やかに挨拶が飛び交いロビーにもお花が並んで、ある種、お祭り的な高揚感に劇場全体が包まれるものだが、今回ばかりは粛々と、淡々と、静かに準備を進めて舞台へ。

 寂しい気もするが、見方を変えれば、落ち着いて準備ができて、いつも通りの平常心で初日に臨めるということだ。

 ありがたいことじゃないか。

 袖でスタンバイしていても、お客さんの気配を感じない。

 芝居が始まると度々、くすりくすりと控えめに笑う、マスク越しの息遣いがわずかに舞台上まで届いて、「あ、お客さんが観てくれているのだな」と認識する程度。

 これも見方を変えれば、必要以上に緊張せずに、しっかり芝居に集中できるということだ。

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カーテンコールでは…