7月20日午前4時、日本政府のチャータージェット機で羽田空港に到着。100人余りの警察官の警備のなか、車列は避暑地・軽井沢にある滞在先の鳩山由紀夫前首相の別荘に進んだ。2日間の滞在中、別荘へはすしとバーベキュー、フランス料理が宅配された。
22日は、約90万円のチャーターヘリで横浜、東京スカイツリーなどを遊覧飛行。中井洽国家公安委員長から金元死刑囚の子どもへのお土産としてゲーム機やキャラクターつき筆箱などを受け取り、宿泊は日本を代表する帝国ホテルだった。
最終の23日もチャーター機で韓国へ帰国。往復のチャーター費用は約700万円という。もちろん、かかった費用はすべて血税である。
各国のメディアはこの"漫遊記"を痛烈に皮肉っている。
〈元スパイがまるで女優扱い〉(英国・インディペンデント)
〈大韓航空機爆破犯にレッドカーペット待遇〉(韓国・朝鮮日報)
元警察官僚で拉致問題に長年携わってきた平沢勝栄衆院議員は、こう話す。
「軽井沢への移動では、高速道路を封鎖したうえ、すべての信号機を青に操作して通過させました。天皇、皇后両陛下は、『一般の方に迷惑がかかる』と主要な公務以外は極力交通規制をご遠慮されます。そのほかの皇族方が外出する場合に信号操作はありませんから、皇族方を上回る超国賓級の扱いです」
だが、そんな厚遇をしても、金元死刑囚からもたらされた拉致被害者に関する新情報はゼロだった。
それどころか、日本は超法規的措置をとって呼んだことで、韓国に大きな借りをつくったという。
「たとえば8月末に控えた日韓併合100周年の節目に、韓国寄りの政府見解を用意するなど、借りを返す必要も出てきてしまった」(同)
朝鮮日報日本支社の鮮于鉦特派員も、日本政府の対応に首をかしげる。
「韓国では、金賢姫はすでに過去の人です。北朝鮮にいたのは23年も前で、彼女がいま、重要な情報を持っているはずがない。それどころか、日本政府は金賢姫が大量虐殺を犯した元テロリストだったことさえも忘れている。情報提供と引き換えに国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディンを歓待しますか? 金賢姫とビンラディンの間に違いはあるのでしょうか」
莫大なコストと引き換えに得たのは、世界各国からの突き刺さるような不信感だけだった。