井上:国際柔道連盟が理想として掲げているのは、「お互いがきちんと組んで、技で勝負を決するようなルールにしよう」ということなんです。シンプルかつ皆さんが納得できる内容のルールにしようということなんですが、“勝負”というものがそこに入ってきたときに、その理想だけで戦えるかというと決してそうではない。戦術的にいろんな駆け引きが出てくるので、そこに難しさがあるんです。
林:なるほど。
井上:そこで国際柔道連盟の方針としては、ゴールデンスコアという延長戦システムを取り入れて、そのときには「指導」とかで勝負を決めるのではなく、技で勝負を決めていく。みんなが納得できるような、シロクロはっきり勝負をつけるというルールをつくったんですね。たとえば自分が相手の襟を取ったときに、相手はそれを切ろうとするわけですが、それをあまり過剰にするとペナルティーが与えられる。両手でバチッと切るような動作には、その時点で反則が与えられます。お互い組んだうえでの技での勝負、これが柔道の魅力なんだということですね。
林:はい。
井上:もう一つ大きく変わったのは足を取っての攻撃(タックル)です。昔は「ジャケットレスリング」と言われたんですが、この足を取る行為も撤廃して、組み合わずに足を持った時点で反則が取られます。
林:日本が理想とする形に近づいたわけですね。
井上:ところが、皆さんそうおっしゃるんですが、いざ試合となると、これがまた違う攻め方をしてくるんですよね。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
井上康生/いのうえ・こうせい 1978年、宮崎県生まれ。東海大学体育学部武道学科卒業後、同大大学院体育学研究科修士課程修了。5歳のときから柔道を始め、全国少年大会を始め、全国中学、インターハイなど各年代の大会を軒並み制覇。2000年シドニー五輪100キロ級金メダル、04年アテネ五輪100キロ級代表。99、01、03年世界選手権100キロ級で優勝。01~03年全日本選手権優勝。12年、全日本柔道男子監督に就任。現在、東海大学体育学部武道学科教授。元代表監督の斉藤仁さんについて語った『柔の道 斉藤仁さんのこと』(講談社)が発売中
>>【後編/井上康生が篠原信一に感謝? 「先輩があれだけふざけてくれるので」】へ続く
※週刊朝日 2020年10月2日号より抜粋