読んで字の如く「出」のタイミングを「とちる」。
誰がどの瞬間にどこからどんな風に出てくるのか。それはもちろん決まっている。
しかるべきタイミングで登場し、退場しなければならない。退場し忘れることはまずないが、登場は気が抜けない。
2秒遅れたらもう、お客さんにも気付かれるくらいの事故だ。
舞台上で、出てくるはずの共演者をフリーズして待つ2秒は永遠に感じる。
<その2「小道具を持ち忘れて出る」>
怖い……例えば会話の途中で内ポケットから手紙を取り出して相手に渡し、相手がそれを読む。そんな流れなのに手紙を忘れて出る。
内ポケットに手を入れた瞬間に凍りつく!
その場合は、もう最悪いったん袖に取りに戻って続けるしかない。
しかし、続けたとしても本来のニュアンスは失われ、そこまでみんなで積み上げて来た物語が台無しになってしまう。怖い。
<その3「食当たり」>
これはもう、地獄である。
舞台上で、たくさんの人の前で、あれをあれしてしまうことなどあってはならない。
タダでさえ針の穴に糸を通すほどの集中力を要する舞台。
それを、お腹の痛みとあれをあれする恐怖と戦いながらやるなんてもう、地獄以外の何ものでもない。
<その4「怪我」>
本番中に怪我。これも恐ろしい。
血が出るような怪我から、ぎっくり腰。怪我にもいろいろあろうが、「あ、あの人怪我した」とお客さんにバレた時点で、物語の世界は崩れてしまう。
ストーリーよりも「大丈夫かしら?」と役者としてのその人が気になってしまう。
<その5「へんなところに入るやつ」>
みなさんもご経験かと思う。唾が気管の方にぽこっと入って思いっきり咳き込むやつだ。
「へんなとこに入っちゃった」と言いながら、静かな、シリアスなシーンで、もし、それが起こってしまったらば、全力で咳を抑え込まなければならない。
身体は、喉に入った異物を出そうと激しく反応する。
歯をくいしばり、涙を滲ませてそれを押さえ込む!
自分との戦い!
自分の咳ひとつでシーンの緊張感を台無しにする訳にはいかないのだ。