関東選手権のフリー、冒頭で佐藤が挑んだ4回転ルッツは回転が抜け、2回転になった。しかし、続く4回転サルコウ、4回転トウループを成功させた後、佐藤は再び4回転ルッツに挑む。ところが3回転になってしまった上に転倒し、左股関節周辺をひねってしまった。この挑戦について、佐藤は次のように語っている。

「最初は4回転トウループ2本の構成でやっていたんですけど、最初のジャンプ(4回転ルッツ)がパンクしてしまった。最近全然4回転ルッツが跳べていなかったので『降りたいな』という気持ちがあった。それで4回転サルコウ降りて、4回転トウループも降りたので『この流れで、4回転ルッツもいけるかな』と思ってやったら、痛いこけ方をした」

 オフアイスでは朴訥な語り口で素朴な印象のある佐藤だが、オンアイスでは演技冒頭で失敗した大技に、予定外のところで再挑戦する勇気を持っている。今回はその結果転倒してしまい、高難度ジャンプに伴う危険も再認識される結果となった。ただ、佐藤が自らの誇りである大技に果敢に挑む姿には、シニアデビューの若武者にふさわしい心意気を感じる。

 一方鍵山は、フリーに3回転ルッツ―3回転ループという難しい連続ジャンプを入れてきた。男子ではどうしても4回転が話題の中心になるが、アリーナ・ザギトワ(ロシア)が平昌五輪を制した際に武器となった3回転ルッツ―3回転ループは男子にとっても難しいようで、試合で跳んでいるのはチャ・ジュンファン(韓国)など限られた選手だけだ。

 通常、連続ジャンプの2つ目にはループではなくトウループをつけることが多い。セカンドジャンプがトウループの場合、1本目のジャンプを降りた後、氷に着氷足以外に逆足のつま先を着くことで跳び上がることができる。一方、逆足のつま先を着かずに跳ぶループをセカンドジャンプとして跳ぶのは難しいとされる。

 鍵山の場合、3回転ルッツ―3回転ループを「最初は練習で本当に遊び感覚でやっていたんですけど、ある日調子がよくなって」、試合で入れることを決めたという。鍵山自身「ちょっと挑戦的な、今のところは半分賭けみたいなところがある」と語った関東選手権・フリーでの3回転ルッツ―3回転ループには、1.77の加点がついた。おそらく、鍵山が3回転ルッツ―3回転ループを習得できたのは、1992年アルベールビル五輪・94年リレハンメル五輪男子シングル代表だった父・正和コーチから受け継ぎ、鍛錬されてきた柔らかくバネのある足首を持っていたからではないか。

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2人のライバル関係がフィギュア界を盛り上げる?