C型肝炎になるとどうして扁平苔癬になるかはいまだ不明です。また近年、C型肝炎の特効薬として登場した直接作用型抗ウイルス薬が扁平苔癬を良くするかもわかっていません。肝炎ウイルスと皮膚の病気に関連はあるものの、まだまだわからないことだらけです。

 医学的に興味深いのは、扁平苔癬という病気は薬の副作用でも起こるということです。C型肝炎が関連する扁平苔癬と薬の副作用でおきる扁平苔癬は私たちの目では区別がつきません。なので、先ほど「皮膚科医は扁平苔癬をみたらC型肝炎を調べる」というのは情報として不十分で、薬の内服歴も患者さんに聞くことになります。

 ウイルスが原因の皮膚のブツブツと薬が原因のブツブツは、扁平苔癬に限ったことでなく似ていることが多いと思います。専門家でも、ウイルスによる皮疹と薬疹を視診だけで区別がつかないことがあります。こういう場合は採血も追加して、他の血液検査所見を参考にします。

 一般の方は、原因が違っても皮膚に同じブツブツが出てくるのはとても不思議に感じるかもしれません。しかし、原因が何であろうと反応するのは皮膚や免疫です。火力であろうが原子力であろうができ上がる電気は同じなのと同じことです。出てきたブツブツだけで元となるスイッチを探り当てるのはしばしば専門家でも難しい謎解きです。

「皮膚は内臓を映す鏡」といわれます。今回説明したC型肝炎だけでなく、心臓が悪い方、腎臓が悪い方、糖尿病がある方、それぞれ特徴的な皮膚の質感やブツブツがあって皮膚科専門医はそういった知識と経験をもとに内臓の病気を探り当てます。C型肝炎の発見から新薬の登場で治療可能となれば、何十年後かにはC型肝炎に関連した皮膚病は消えていくかもしれません。皮膚病も時代とともに変わっていくかもしれないと感じた今年のノーベル医学生理学賞でした。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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