写真はイメージです(GettyImages)
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 カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く連載「男と女の処世術」。今回のテーマは「夫婦間のコミュニケーションをダメにする構図」について。夫婦関係がうまくいかないとお悩みの方は必読の内容です。
*  *  *

 先日、足立紳監督の「喜劇 愛妻物語」という映画を見ました。

 ストーリーよりも私が気になったのが、妻とセックスをしたい夫・豪太と妻・チカのコミュニケーションのパターンです。豪太はチカを説得してセックスに近づけたいのですが、その結果、チカの話に基本否定で答えます。

 正確には覚えていませんが、

「いや……」

「でもさ、でもさ……」

「だけど……」

「そんなこと言ったって……」

 というような言葉が多用されていて、半ば職業病でかなり気になりました。

 以前、妻が口をきいてくれないのをどうにかしたいと言って、一人でお出でになった慎吾さん(職業不詳、40代前半)を思い出しました。彼も、その先にはセックスというのがあったようですが、さすがに口もきいてくれない人とセックスというのは難しいので、まずは話をしてくれるような関係になり、それから一緒に旅行に行けるようになって、セックスという深謀遠慮のお話でした。

 実は、慎吾さんの話もすべて否定から入ります。

「奥様との会話がないっていうことなんですね」

 とお聞きすれば、

「いや、全くないというわけではないですが、ほとんどないというか、事務的なことをたまにいうか言わないかぐらいで」

 と答え、

「それは、しんどいですね。」

 と言えば、

「いや、しんどいっていうか、何かいいアドバイスがないのかな、と思って」

「先が見えない感じがしますよね」

「いや、先が見えないというか、何を考えているのかわからないというか……」

 というような調子です。

 発言が「いや」から始まるので、なんとなく否定された気分になりますが、そのあとに続く話からすると、私の言っていることを否定しているどころか、肯定しているように思えます。

 私は「とりあえず、いや、と否定から入りますよね。」と言ってみました。予想どおり、

「いや、いつも否定から入るってわけじゃないんですけど。」

 と、「いや」から返されて平然としていました。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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