■つらさを口にできない
この2、3年で死産や流産の経験をSNSやブログなどで発信する人が増えたが、レインボーベビーを授かったことやその後の苦しみは吐露しにくい。
妊娠7カ月で息子を死産した経験を「チーちゃんママ」としてブログで発信する谷原嘉代さん(45)は、死産から約2年後に次の子を出産した。
「ちゃんと生まれたのだから弱音を吐いちゃいけない、つらいなんて言ってはいけないと思い、どこにも気持ちを吐き出せなかった。今振り返ると産後うつになっていたと思います」
子どもに笑顔で接したいのに、笑えなくなった。離乳食や食事を作らなきゃと思っても起き上がれず、腐った野菜を見て自分に嫌気がさし、自己肯定感がどんどん下がっていった。
谷原さんは、500人を超える死産や流産経験者の相談を受けてきた経験から、こう話す。
「悲しみからの回復には、気持ちを吐き出して、それを自分で受容していくことが大切ですが、レインボーベビーを授かるとそれが難しくなることがあります」
谷原さんは友人が話を聞いてくれてずいぶん助けられたというが、次の子が生まれると、周囲から「もう大丈夫だ」と思われ、現在のつらさや過去の悲しさを口にする機会が失われてしまうケースが多いという。
「複雑な感情になるのは正常なことだし、次の子が生まれたとしても、亡くなった子を忘れることはありません。周囲の方々にも、感情を吐き出す手助けをしてもらえたら」(谷原さん)
亡くなった赤ちゃんは限られた時間でも家族に幸せをもたらしてくれた尊い存在だ。だが、一般には赤ちゃんの死はタブー視され、話すと気まずい雰囲気になってしまい、話しにくい現状がある。だが、亡くなった赤ちゃんを一人の人として認めてもらえることで、当事者は戸籍にも残っていない命が確かに存在していたのだと実感でき、癒やされていく。
■もっと話しやすい社会
前出の平尾さんは先日、小学5年生の息子から、同級生に亡くなった姉の名を教えたと報告を受けた。紙に「莉子(りこ)」と書くと、「かわいい名前だね」と言ってもらえたと聞き、救われる思いだった。
「もっとお空にいる子のことを話しやすい社会になったらいいのに、と感じます」(平尾さん)
毎年10月9日からの1週間は赤ちゃんを亡くした家族のための国際的な啓発週間「Baby Loss Awareness Week」。最終日の15日の夜7時から8時はキャンドルを灯して亡くなった赤ちゃんとそのご家族を思う「Wave of Light」が行われる。海外では当事者ばかりでなく、子どもを亡くした知人にキャンドルの写真を送る動きも広がっていて、当事者の孤独感を和らげている。(編集部・深澤友紀)
※AERA 2020年10月19日号より抜粋