エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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足立区の白石正輝区議は「同性愛が法律で守られると足立区は滅んでしまう」などと区議会で発言した(写真:足立区議会の議会中継サイトから)
足立区の白石正輝区議は「同性愛が法律で守られると足立区は滅んでしまう」などと区議会で発言した(写真:足立区議会の議会中継サイトから)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「多様性が大事だという人たちは、“性的少数者は受け入れ難い”という意見を多様性の一つとして認めようとしない。それは独善的だ。正しい知識を学べと言うのは上から目線だ」。同性愛に対して誤った認識に基づく差別的な発言をした東京・足立区議会の白石正輝区議への批判について、そう叩く人たちがいます。批判は「上から目線」ではありません。なぜこんなに抗議の声が上がるのかを知ろうとしない態度こそ独善的で傲慢(ごうまん)です。

「区議を責めても被害者意識が強まるだけだ。そういう考えも多様性の一つだ」というのは、分断をなくそうとする“まっとうな”意見を気取っていますが、長い間差別に苦しんできた人たちへの視点を欠いています。議員として政策に携わる人には差別のない社会を作る責任があるのですから、正しい知識を身につけるのは当然です。

 白石区議の「こんなことはありえませんが、日本人が全部L(レズビアン)、全部G(ゲイ)となってしまったら、次の世代をになう人が生まれない」という発言からは、同性愛を「個人の趣味で選択するもの」だと考えていることがうかがえます。白石区議にとって異性を好きになることが生まれながらの当たり前であったように、異性愛、同性愛などの性的指向は“プレイ”ではありません。区議は自分の意見を変えるつもりはないと主張していますが、誤った知識に基づく偏見を広め差別を助長する発言をしたことは許されません。

 こういう時に必ず出てくる「差別に反対する者こそ差別をしているのだ」という意見は、差別を傍観し、少数者の口をふさぐ態度です。本気で分断に橋をかけたいなら、必要なのはまず川にたたき落とされて溺れている人を助けることです。突き落とした者を擁護することではありません。自分は差別と無関係だという傲(おご)りに強い憤りを覚えます。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年10月19日号