狭山湖畔霊園の「狭山の森 礼拝堂」。祭壇も椅子も、祈りに集中できるデザインを徹底的に意識した。管理休憩棟とともに、建築家の中村拓志さんが設計(撮影/写真映像部・高野楓菜)
狭山湖畔霊園の「狭山の森 礼拝堂」。祭壇も椅子も、祈りに集中できるデザインを徹底的に意識した。管理休憩棟とともに、建築家の中村拓志さんが設計(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 関東平野の西部、狭山丘陵の風光明媚(ふうこうめいび)な自然の中に位置する「狭山湖畔霊園」は、歌手の故・尾崎豊さんのお墓があることで知られている。同時に、建築家の中村拓志さんが手がけた斬新な「管理休憩棟」(13年完成)、「狭山の森 礼拝堂(らいはいどう)」(14年完成)が注目を浴びている。

 お墓参りや法事に集う人たちのための管理休憩棟は、座禅の「半眼」をモチーフに、軒を極端に低くした平屋が、周囲の自然に溶け込むようにたたずんでいる。建物の外側には水盤が設けられ、そこに建物が浮いているような幻想的な趣だ。

スウェーデンの「森の墓地」は建築好きの聖地。なだらかな丘に通る道が礼拝堂に続く。故人と自身の行く先が重なる(Akiko Onishi)
スウェーデンの「森の墓地」は建築好きの聖地。なだらかな丘に通る道が礼拝堂に続く。故人と自身の行く先が重なる(Akiko Onishi)

■50カ国以上から見学

 内部に入ると、視線の高低によって、二つの違った景色が味わえる。立っている時は、外の眺めが遮断され、おのずと心の内側に意識が向くように。座ると今度は、水盤の向こうに広がる森林の景色が視界に入り、人が自然とともにあること、そして死もその一部であることを、思わせてくれる。

 少し歩いた先にある礼拝堂は、管理休憩棟の水平的な構成と対比して、垂直のラインが圧倒的な迫力を持つ建物だ。251本のカラマツ集成材が「合掌造り」で組まれ、構造をそのまま生かした内部が、森の聖性をダイナミックに表現する。

 静謐でありながら、強い存在感を放つ建築は、数々の建築賞を受賞し、世界中の建築好きの間で「マスト・ゴー(見に行くべき)」の場所になった。運営元の公益財団法人「墓園普及会」によると完成以来、50カ国以上から見学者が訪れているという。

 同財団理事長の大澤秀行さんは、墓地の供給・管理事業に携わる一方で、現代美術コレクターとしてもキャリアを重ねてきた。その審美眼をもとに、兵庫県で運営する「猪名川霊園」では、モダニズム建築の世界的権威、デイヴィッド・チッパーフィールドさんを起用した。

 墓じまいの機運が進む中で、墓地事業は新規投資が見込めない領域とみなされがちだが、同財団では逆に、高度なブランド化を進めることで、将来的な発展を図る。その際に鍵となるのが、世界に発信できるデザインなのである。

 手がけた中村さんは語る。

「狭山湖畔霊園では『祈り』の建築を作りたいと思いました。建築は言葉を発しませんが、空間全体で来る人の気持ちに寄り添うことができる。『死』は建築家にとって避けるべき言葉ではなく、むしろイマジネーションを広げてくれるものなのです」

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