狭山湖畔霊園の「管理休憩棟」。建物外部の水盤に映る四季折々の景色と水面の揺らぎが天井に反射して、内部に敬虔な雰囲気を作り出す(撮影/写真映像部・高野楓菜)
狭山湖畔霊園の「管理休憩棟」。建物外部の水盤に映る四季折々の景色と水面の揺らぎが天井に反射して、内部に敬虔な雰囲気を作り出す(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 団塊世代が後期高齢者になり、やがて日本は「多死社会」に。それなら墓地や墓標にだって、カッコいいデザインがほしい。暗い、悲しい、冷たい「葬」を刷新する動きがある。AERA 2023年2月6日号より紹介する。

【写真】狭山湖畔霊園の「狭山の森 礼拝堂」

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 1998年から2010年まで、世紀をまたいで一世を風靡(ふうび)したドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」シリーズ。NYを舞台に4人の女性が、甘く、辛く、それぞれの人生を謳歌する、おしゃれでウィットに富んだ物語だ。21年には10年以上の年月を経て、待望の続編「AND JUST LIKE THAT…/セックス・アンド・ザ・シティ新章」が世界各国で放映・配信され、話題を呼んだ。

 ここでファンたちに衝撃を与えたのが、第1話で主人公キャリーのパートナー「ビッグ」に死が訪れたこと。50代、60代に突入した登場人物たちに、時の流れがしのびよる展開だ。

 しかし、キャリーは涙を流しながらも、美意識へのこだわりを捨てない。従来のお花だらけの甘ったるい葬儀を拒否して、NY流のスタイリッシュなセレモニーを執り行う。さすがのファッショニスタぶりなのである。

 キャリーと同じく、かつて若かった私たちにも、現実は容赦なくやってくる。

 国立社会保障・人口問題研究所の統計「日本の将来推計人口(17年度)」によると、20年に138万人だった日本の死亡者数は、40年には168万人に増加する見込み。昨年から来年にかけては、日本人口の最大ボリュームである団塊世代が全員、後期高齢者になる。多死社会は目前に迫っている。

■座禅の半眼モチーフに

 一方で、近年に顕著な動きが「墓じまい」だ。厚生労働省の「衛生行政報告例」では、お墓の引っ越しを意味する「改葬」が、20年度は約11万8千件で、20年前の6万9千件から比べると、1.7倍に増えた。

 家族のあり方とライフスタイルが変わる中で、先祖代々の土地で「家」を継承する従来の墓の形は、だんだんと時代にフィットしなくなっている。経済的、時間的に負担が大きいのであれば、さらに、その形が避けられていくのは必至だ。

 となれば、従来の「葬」を超える新しい概念、デザインが日本にも登場していい。都会ではすでにマンション型や宗派不問、合祀などの形で、お墓の合理化が進んでいるが、一方で、建築家、アーティストらが、暗い、悲しい、冷たいといった「葬」のイメージを変えていく事例も登場している。

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