外れ1位で最も驚かされたのが西武の渡部健人(桐蔭横浜大)だが、チーム事情を考えるとこの選択肢は納得がいく。毎年のように主力の野手がFAで退団し、25歳以下の若手にもほとんど強打者タイプがいない。渡部は対応力には課題が残るものの、この秋は10試合で8本塁打とその長打力は非凡なものがあり、西武というチームに非常にマッチしている選手だ。また3位以下で獲得した野手4人もいずれも粗さはるものの長打力を備えた選手たちである。野手の育成に長けているチームの長所を生かすことを考えた指名とも言え、この中から数年後の主力が複数出てくることも十分に考えられるだろう。
一方の投手は支配下選手の指名は2人にとどまった。2位の佐々木健(NTT東日本)は社会人でも即戦力というよりも素材型の選手。5位の大曲錬(福岡大準硬式)は準硬式の投手とは思えない実力者だが、こちらも高いレベルでの経験は不足しているだけに長い目で見たい投手だ。育成で獲得した3人の投手も面白い素材だが、もう少し早くから戦力として期待できる投手も1人くらい狙っても良かったかなという感想を持った。
■ロッテ:60点
早くから公言していた早川隆久(早稲田大)の抽選を外し、同じサウスポーの鈴木昭汰(法政大)をヤクルトとの競合で獲得。更に2位で高校生屈指の実力者である中森俊介(明石商)、4位で未完の大器タイプながらスケール抜群の河村説人(星槎道都大)を指名して投手陣の底上げには成功した印象だ。ただ一つ気になったのは弱点と見られているリリーフ陣の手当ができなかったところ。抑えの益田直也、セットアッパーの唐川侑己、巨人から獲得した沢村拓一が揃ってベテランに差し掛かっており、若手では小野郁くらいしかリリーフの戦力になっていない。1人くらい早くからブルペン陣に加わりそうな投手を狙っても良かったのではないだろうか。
野手の二人は手薄になってきた二遊間、将来を考えての右の大砲候補と補強ポイントにはマッチした指名になっている。ただ3位の小川龍成(国学院大)は打撃の弱さ、5位の西川僚祐(東海大相模)は確実性に大きな課題があるだけに、こちらももう1人くらい安定した打力のある選手を狙いたかったところだ。
2回にわたってセ・パ12球団の指名を診断したが、どの球団も比較的納得がいく指名が多かった印象を受ける。それだけ力のある選手が多かったということは間違いない。コロナ禍で異例の年となったが、数年後に振り返った時に豊作だったと言われる可能性は高いだろう。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。