裏を返せば当事者だけではなく、周囲が苦労することもある。
■ 誕生日、クリスマス、お正月にみんなと食卓を囲めない
例えばこんなケースがあった。数百人が集まるある立食パーティーの出席者のうち主賓クラスの2人が「ビーガン」だった。それがわかったのがケータリングの料理の発注後。主催者側の男性がため息をついた。
「立食パーティーのおつまみといえば、チーズやサラミ、ソーセージが定番。急いで5人分ほどを別メニューで用意してもらったものの、大量に作ることを想定していた業者には嫌みを言われてしまいました……」
当日も配慮が必要だった。
「他の出席者には何であそこだけ違うの?といちいち聞かれましたし、立食パーティーだと通常はいろんなテーブルを回って相手と同じ物を飲み食いしてコミュニケーションをはかるものですが、それができないので盛り上げるのには苦労しましたね」
一政さんによると、実は先行する海外でも状況は似たようなもので、友人を食事に招いたらビーガンだったため何も食べてもらえなかった、全員がビーガン食を食べる羽目になったというのはよくある話。誕生日やクリスマス、お正月といった家族や友人と食卓を囲む機会が増える行事や旅行などがきっけかにビーガンを卒業することも多いという。
あくまで個人的な意見として、一政さんは、長期的にビーガンであることにメリットをあまり感じないという。その理由をこう語る。
「長期的に続けると、神経障害·骨粗鬆症·筋力低下・免疫力低下など、栄養不足による病気や不具合が心配なだけではありません。常に自分だけが違う食事をすることによる友人や家族への影響も心配です。和食、郷土食、外国の料理の多くも食べられなくなり、食文化を楽しむ機会もかなり限定されます。動物性食品を口にしたくないという信念がとても強い場合を除き、気軽に始めるには、失うこと、心配するべきことが多すぎると思います」
■ 結局、代用肉はおいしいのか
最後は、もう一つの素朴な疑問について。代用肉はおいしいのか。そもそも「おいしい」「おいしくない」は個人の好みによるというのは大前提としても、以前よりも多くのメーカーや飲食店が「ビーガン食」に参入していることで、かなり「味」や「食感」も改善されてきているようだ。しかし、冒頭の30代女性はこんな本音を漏らした。
「ソイミートのから揚げなど『肉とそっくり』『本物の肉とかわらない』なんてレビューあるけど、よっぽど舌がおかしいのかと、私は思ってしまった……。肉も魚も好きなので、それにはかなわないと思います」
とはいえ、何もしないよりは1食でも実践するほうがいいと考えているという。環境問題に対して、何かアクションを起こしたいというのが大きな理由だからだ。
「ビーガン食をときどき取り入れるのは、フェアトレードのコーヒー豆を購入する感覚に近いかな。1食分でも、ちょっとでも肉が減って、それが地球にいいならウィンウィンじゃないですか」
正直、徹底して続けることはなかなか難しそうなビーガン。メリットとデメリットを知って、ゆるく始めてみるのならアリなのかもしれない。(AERAdot.編集部/鎌田倫子)
<識者プロフィール>
一政晶子(いちまさ・あきこ)/All About「栄養管理・療養食」ガイド。管理栄養士、米国登録栄養士(RD)、米国栄養サポート臨床師(CNSC)、臨床栄養学修士。急性期病院の現場で働く栄養士経験を活かしながら、さまざまなメディアで実用的な栄養管理のコツと、病気ごとの療養食・食事療法の基礎知識を解説している。https://allabout.co.jp/gm/gp/48/profile/