そろそろやってくるインフルエンザシーズン。今年の冬は新型コロナウイルス感染症との同時流行が懸念されています。これらのウイルス感染症に対して、「歯みがきなどの口腔ケアが有効」という話を聞くようになりました。実際のところはどうなのでしょうか? その効果的なやり方は? 『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師にうかがいました。
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寝たきりで口の清掃が十分にできない高齢者は、誤嚥(ごえん)性肺炎など細菌が原因の肺炎にかかりやすいことがわかっています。口の中にいる700種類以上の細菌の中にはからだによい菌もある一方、歯周病菌など、肺炎の原因になるものも多く、のみ込んだり、食べたりする嚥下(えんげ)機能が低下していると、誤嚥によって、唾液(だえき)と一緒にこれらの細菌が気道から肺に入りやすくなってしまうためです。
近年、こうした細菌がインフルエンザウイルスの増殖や重症化に直接、関係していることがわかってきました。
少々、難しい話になりますが、インフルエンザウイルスがからだに入ってきた後、これを増殖させる物質に「NA(ノイラミニダーゼ)」という酵素があります。
このNAは健康な細胞に次々と入り込んで感染を拡大させることがわかっており、抗インフルエンザ薬の「NA阻害薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)」(タミフル、リレンザ、イナビルなど)はこのNAの働きを抑制し、病気の進行を抑えます。
日本大学歯学部細菌学講座の落合邦康教授らの研究チームは口や歯ぐきに付着しているデンタルプラークの中にいる細菌に、NAを作り出すものがあることを見つけました。なんとその一つは歯周病菌の「P.g(Porphyromonas gingivalis)菌」。数ある歯周病菌の中でも重症化を招きやすく、たちが悪いといわれる3種類(レッド・コンプレックス)の一つです。
こうしたNAを作り出す細菌をインフルエンザウイルスに感染させた細胞に加えたところ、細胞からのウイルスの量が21倍に増えました。さらにこの状態に抗インフルエンザ薬を投与しても、ウイルスの放出量は十分に抑えられなかったと報告されています。
こうした結果から、口腔内が不潔で細菌だらけだとインフルエンザにかかりやすく、抗インフルエンザ薬の効き目も悪くなる可能性があるということです。
なんとも恐ろしい話ですね。
新型コロナウイルス感染症についても、歯周病とのかかわりが指摘されています。