■小さな専門店の協働
K5から徒歩数分の範囲内でも、古い路面店を改装し、夏に5店舗がオープンした。平日昼には女性を中心に満席になるビストロや人気パティシエのパティスリーのほか、自然派ワインの角打ち店やスウェーデン発の自家焙煎コーヒースタンドなど。いずれも話題の店や人が始めたとあって、注目を浴びている。
70年近く親しまれたものの後継者不足のため2年前に閉店した老舗の鰻屋には、スウェーデンのブルワリーのアジア初進出ビールスタンド「Omnipollos Tokyo(オムニポロストウキョウ)」が入った。かつて「特上の数で株価がわかる」と時評にもなっていた町の名物店だった。店長の澤本佑子さんは店を出した理由を言う。
「本国のオムニポロ社が日本で出店したいという意向がある中、日本橋兜町が大きく変わっているという動きを知って、町づくりに共感しました。歴史を感じる建物との出合いも大きかったです」
平和不動産が店を誘致する上で決めていたのは「店同士が競合ではなく協働できること」(山根さん)。実際に、メニューをペアリングしたり、混んでいたら別の店に案内したり。わずか10ヘクタールの小規模再開発において、小さな専門店同士が横につながり、新しい文化をつくるまちづくりを目指す。
飲食店だけじゃない。起業してまもない金融系ベンチャーを対象とした複合オフィスもオープンした。平日・週末問わず、20~30代の姿が増えていると同社の伊勢谷俊光さんは言う。
「建物もスーツもグレーの色だった町に彩りが増えてきました」
来夏には、茅場町駅直結の15階建てのオフィス・商業複合施設が開業する。コロナ収束後、どんな町として定着するのか楽しみだ。(編集部・塩見圭)
※AERA 2020年11月30日号