「まず今ここでの経験に心を向けて気づくこと。たとえば今、足の裏は何を感じているか、普段は意識が至っていないと思います。そこに思いを至らせることでそこにある感覚に『気づく』という経験がマインドフルネス。もしそこにかゆみがあれば、『嫌だ』『かきたい』などの『評価』が生じ、通常そうした無意識の評価に従って『かく』などの行動をします。そうした評価を手放して、自分の心があちこちに動いているなと経験していくうちに、自分を俯瞰的に達観して見られるようになります」
こうしたトレーニングによって、心が動くことにとらわれるのではなく、心が動いていること自体を眺める目線ができるという。それがひいては、感情を衝動的に表したり、ストレスを重く感じたりすることへの対処法につながる。
実際に効果も出ている。伊藤教授は続ける。
「マインドフルネス認知療法によって、うつや自殺願望の再燃が抑えられることがわかっています。私たちの研究室では昨年、自殺願望を持つ方々を対象にマインドフルネス認知療法を行いました。コロナによって世界人類の精神健康が悪化し、参加者の中には仕事を失った方もいましたが、追跡調査の結果、参加者の精神健康は悪化することなく維持されていました」
他にも、08年のリーマン・ショック時に、マインドフルネス傾向の低い人は主観的幸福感が下がり、マインドフルネス傾向が高い人はその影響を受けなかったとする研究結果や、マインドフルネス傾向が高い人のほうが認知症になる比率が低いという数字も出ているという。
そうしたこともあって、今年9月、福岡市が自治体として初めて、市民の健康のためにマインドフルネスを導入した。
「まずは医療や福祉関係の事業者向けにプログラムを提供しました。当初は200人程度の募集予定でしたが、申し込みが多く、実際には300人程度での実施となりました」(担当者)
大きな広がりを見せるマインドフルネス。記者が取材した3人は「まず実践が大事」と口をそろえる。ただ、「ストレス軽減のため」などと手段としてマインドフルネスを始めると、「効果があった」「なかった」という「評価」が生まれてしまい、うまくいかないという。伊藤教授は、こう語る。
「自分自身とうまく付き合い、自分自身を整理するための、人生の大きな目標として始めるのがいいです。心の筋トレとして捉えてください。無理してやるものではありません。できる範囲で、たとえば寝る前の5分でもいいので、まず始めてみて、そして続けてみてはどうでしょうか」
(本誌・秦正理)
※週刊朝日 2020年12月11日号