いまでもほぼ毎晩、飲む。ワインならボトル1本。しかし、「お酒に手を出すことは、もうその日は本を読んだり書いたりを放棄すること。早めに寝て、翌朝早く起きてやりたいことをやることにしてます」。
■著者と一緒に飲む感覚
一方で、「飲みながら読めますよ」という人もいる。弁護士の山口元一さん(55)は、ひと晩でワインボトル1本半、ウイスキーならボトル半分を空ける。平日は仕事の傍ら打ち込む中距離走のトレーニングに支障が出るので飲むのは金、土、日だが、「大酒飲み」の自覚はある。
「飲むピッチも速いんです。1、2時間で飲んでしまう」
さらに「お酒はほぼ例外なく、本を読みながら飲みます」とも。信じがたいが、ある言葉で腑に落ちる気がした。
「著者と一緒に酒を飲んでる感じなんですよね」
仕事が終わった。そういえばきょうは月の第1金曜日、米国の雇用統計が発表される日だ。コロナで経済めちゃくちゃだけど、リーマン・ショックの時はどうだったか、当時の財務長官ティモシー(F・ガイトナー)さんに聞いてみよう……。そんな感じでたとえば『ガイトナー回顧録』を手に取り、飲み始める。
「著者に教わりながら、グラスを傾ける。これが楽しいんです」
その夜、試してみた。山口さんは「飲まずに読む方がいいに決まってます」と笑うが、「著者と飲む」という意識が「読める」カギかも、と思ったのだ。村上春樹のエッセー『遠い太鼓』を選び、ビールを飲みながら読む。気のせいかもしれないが、いつもより文字が追えた。1時間で3分の1ほど読み進む。飲むとまったく読めない私にとって初めての体験だ。よし。これも両立への小さな一歩かもしれない。
ただ、飲んでも読めるがこのやり方には否定的、な人もいた。
「私は、飲みながら本を読むことはしないですね」
こう話すのは、書評家の豊崎由美さん(59)だ。
「その本の世界にせっかくチューニングが合っているのに、飲む行為でチューニングがずれてしまう。それが嫌なんです」