男性の方がハイリスクなのは、新型コロナウイルスだけではない。同じコロナウイルスの仲間で、2002~03年にかけ中国などで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)も、香港では男性の方が女性より死亡率が1.6倍高かった。また、13~14年に流行した中東呼吸器症候群(MERS)も同様で、サウジアラビアでは男性の死亡率の方が2.3倍高かった。
こういった傾向は、コロナウイルスによる感染症に限らない。英ロンドン大学の研究チームなどによると、結核菌への感染で起こる結核では、男性の死亡率は女性より1.5倍高い。ヒト成人白血病ウイルスに感染し、白血病になる男性の比率は女性よりも2~3.5倍高い。
新型コロナウイルスの感染について、なぜ男性の方がハイリスクで、女性の方がリスクが低いのか。日本性差医学・医療学会理事長を務める下川宏明・国際医療福祉大学教授はこう説明する。
「女性ホルモンの働きなどで女性は全般的に男性よりも免疫反応が強いため感染症に強く、新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくい」
■エストロゲンの働き
女性ホルモンのエストロゲンには、免疫反応をより強く起こす働きがあると考えられている。膠原(こうげん)病や関節リウマチなど免疫反応が過剰に起きて自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患の患者は女性が男性より多いのはそのためだ。
英UCLの研究チームなどによると、エストロゲンは、免疫細胞の一種、T細胞の反応を高めたり、病原体に対する抗体や、病原体を攻撃するサイトカインの産生を増やしたりするという。
また、米マウント・サイナイ医科大学の研究チームは、病原体が体内に侵入してきた際にまず病原体を攻撃する「自然免疫」と呼ばれる免疫反応で重要な役割を果たすたんぱく質の遺伝子が、女性に2本、男性には1本だけしかない性染色体、X染色体上にあることも、女性の方が重症化しにくい一因かもしれないと指摘する。
下川教授によると、女性ホルモンには免疫反応を強化する働きに加え、さまざまな臓器の粘膜にある上皮や血管内皮細胞を守る働きがある。新型コロナウイルスがまず体内に入って感染する気道の上皮や、重症化すると損傷を受けやすい血管の内皮の細胞などだ。これが、女性の方が重症化しにくい一因と考えられるという。