逆に男性ホルモンのアンドロゲンは、免疫反応を抑制する可能性があるという。加えて、新型コロナウイルスの体内の細胞への感染しやすさを左右するたんぱく質の量の制御にも関係しているとされる。イタリアの研究チームによると、前立腺がん治療のためにアンドロゲン除去療法を受けている患者は、受けていない患者よりも4倍、新型コロナウイルスに感染しにくかったという。

 下川教授が、性差による免疫反応の違いと同じように重要視するのは、喫煙習慣の性差だ。
「たばこを吸う人は様々な意味で重症化する要因がある。男性の方が喫煙率が高いことも、男性のリスクが高いことに大きく影響している」

■喫煙でACEIIが増加

 厚労省が実施する国民健康・栄養調査によると、18年の男性の喫煙率は29.0%、女性は8.1%だった。17年調査では、1日に21本以上吸う人の比率は男性が12.1%、女性が2.8%だった。こういった差も、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクと関係している可能性が高い。

 新型コロナウイルスが体内の細胞に感染する際には、細胞の表面にある「ACEII」と呼ばれるたんぱく質に結合する。このためACEIIたんぱく質が細胞表面に多くある部位は感染しやすい。また、同じ部位でもACEIIたんぱく質がより多くある人は感染しやすい。

 ACEIIたんぱく質はもともと肺や心臓など新型コロナウイルスの攻撃を受けやすい臓器の細胞に多くある。加えて、たばこを吸う人は体内の細胞表面のACEIIたんぱく質の量が増えるという。このため、喫煙者はより感染しやすくなるだけでなく、肺や心臓などがウイルスの攻撃を受けて損傷しやすく、重症化しやすいと考えられる。

 また、喫煙そのものが肺や血管などを損傷したり、インスリンの分泌を妨げたりする。このため喫煙者は新型コロナウイルスの重症化リスクである慢性閉塞性肺疾患といった肺の病気や糖尿病などの生活習慣病になりやすいという背景もある。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年1月18日号より抜粋

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