選手生命の短いスポーツの世界で、それもケガと隣り合わせのレースの世界で、古希を過ぎても選手として活躍している人がいる。今なおプロとして活躍する71歳のオートレーサー谷口武彦選手だ。
3月17日、川口オートレースでの第3レース。黒のゼッケン2番をつけた谷口選手が先頭でゴールした。71歳109日での勝利。自身の持つ公営競技の最年長勝利記録を更新した瞬間だった。
子どものときから、とにかくバイク好き。20歳のときには自分のバイクを持ち、仲間たちと「カミナリ族」と呼ばれたことも。先にオートレーサーになった兄を見て、谷口さんもレーサーになることを希望したが、母がなかなか首を縦に振らない。何とか説得し、レーサーになったのが、24歳のときだった。
長いレーサー生活の中で、40代のときに一度、レーサーをやめようかと考えたという。日本は折しもバブル景気。自分も何か商売ができないかと考えたのだ。
「でも、いい商売は思いつかなくて。それなら好きなオートバイにしがみついていたほうがいいかなと。結果、それが良かった」
成績が悪ければ引退勧告もあるのがオートレースの世界。出走できる間は走り続けようと思う。
「お客さんが見てくれて、『あいつにできるなら、俺にもできる』と思ってくれれば、一番嬉しいですね」
※週刊朝日 2013年4月12日号