※写真はイメージです (GettyImages)
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 英国や南アフリカ、ブラジルで見つかった新型コロナウイルスの変異株が世界に拡大し、日本でも海外渡航歴のない人への感染が相次いで確認された。すでに市中感染が広がっている可能性がある。新潟大学名誉教授の岡田正彦医師が解説する。

「ウイルスの変異は、世界同時多発的に起きていると考えられます。感染者が増えれば増えるほど、ウイルスの変異は起きやすくなります」

 変異株の中でも気になるのがブラジル型だ。岡田医師によれば、ブラジル型の変異株には主に二つのタイプがあり、一つは感染力の強い「N501Y」型。もう一つの「E484K」型は、ワクチン接種でできる抗体の中和作用をブロックする可能性があるという。

「南ア型の変異株も、ブラジル型にきわめて似ているとされています」

 新型コロナはウイルス表面の「スパイクたんぱく質」というクギ状突起物の頭の部分が、人の細胞に結合して感染する。変異の多くはこのスパイクたんぱく質で起きるため、これを標的とする抗体が作用しなくなることが心配されているのだ。

 ワクチンが効かなくなることはないという意見もある。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之医師がこう解説する。

「スパイクたんぱく質は約1200個のアミノ酸で構成されています。そのアミノ酸の並びの何カ所かに変異が起きたとしても、免疫がウイルスを異物と反応する目印はほかにもたくさんある。ですから、現在接種が進められているワクチンでも、変異したウイルスにほぼ対応できるはずです」

 ワクチン開発を進める製薬会社のモデルナやファイザーは、変異株にも有効な新しいワクチンの開発にも取り組んでいる。それでも、ワクチンを無力化するほどの強力な変異株が現れたときに切り札となるのが、「人工抗体」。新型コロナの回復者の免疫細胞から抜き出した遺伝子を元につくられる医薬品だ。

「米国では、コロナ治療薬の人工抗体が第3相試験を終え、緊急使用が認められています。感染初期に人工抗体を投与すると、2、3日のうちにウイルス量を一気に減らすことがわかっています。米カリフォルニア州の動物園では変異株で重症化した高齢ゴリラに人工抗体を投与したところ、回復しました」(宮坂医師)

 人工抗体が日本で使えるようになるまで1年程度かかるとみられる。変異株に対しても、これまでと同じマスク、手洗いといった予防策が有効だ。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2021年2月12日号