「今回のコロナも、3密を防ぎ、マスクを着用し、手洗いを徹底することでかなり感染を予防できると専門家は言っています。それにもかかわらず『公共の福祉』が優先され、患者の存在が社会に害をもたらすと考えられ、差別や偏見につながっているのではないでしょうか」
いま藤野教授が懸念するのが、政府が先日、「入院拒否は懲役」という罰則規定を盛り込んだ感染症法改正案を国会に提出したことだ。感染者が入院措置を拒んだ場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科すことができる。野党やハンセン病元患者らが反発したことで、最終的には懲役刑は削除されることになったが、藤野教授は政府の考え方を厳しく批判する。
「社会防衛を優先するには感染者の人権を制約するのは当然だというやり方です。案に盛り込んだ時点で感染者に対する恐怖感を増し、罰則を伴う入院というイメージが感染者への恐怖や差別・偏見を助長しかねません」
必要なのは罰則を伴う強制隔離などではなく、感染症に対する教育・啓発だと藤野教授は強調する。
「ハンセン病に対しては過去の過ちから教育や啓発は行われてきましたが、それ以外の感染症に関しては基本的に行われていません。感染症に対する恐怖と患者に対する恐怖は、はっきり区別するべきです。恐れるのはウイルスであって患者ではありません。こうした教育と啓発がなければ、今回のようなコロナ感染者の自殺はまた繰り返されてしまうと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年2月8日号より抜粋