新型コロナウイルスに感染し、自宅療養中だった都内在住の30代女性が自ら命を絶った。自宅療養者の自殺という悲劇の根底にあるのは、コロナ患者への「差別と偏見」だ。AERA 2021年2月8日号から。
※【ツイッターで励まし合い、恋人とZoomで食事… 自宅・ホテル療養「心の健康」の保ち方】より続く
* * *
このウイルスは誰もが感染者になる可能性がある。それなのに、コロナにかかったことを隠し、「SOS」を出せないでいる人は少なくない。国立成育医療研究センター(東京都)が昨年8月に行ったコロナに関する意識調査では、子どもの32%、保護者の29%が、もし自分や家族がかかったら感染を「秘密にしたい」と回答した。
都内の主婦(45)は、もし自分が感染しても家族以外には口をつぐむだろうと話した。
「感染した人への誹謗中傷や汚いもの扱いされるニュースを見ると、自分も何か言われたりするのではないかと思い怖いです」
なぜ、感染者を「異物」として排除するような風潮は生まれたのか。自殺対策に取り組むNPO法人「東京メンタルヘルス・スクエア」カウンセリングセンター長の新行内(しんぎょううち)勝善さんは、病気が不安と恐怖を呼び、それらが差別や偏見・嫌悪を生み出す「社会的感染症」が蔓延してきているからだと見る。
「そのため、コロナに感染した人は心情として『社会的に分断されてしまった』というほどの孤立や孤独に追い込まれ、コロナに感染したことを口外しにくくなり、隠してしまいたくなるのではないでしょうか」
ハンセン病問題などに取り組む敬和学園大学の藤野豊教授(日本近現代史)は、戦前から続いた感染症対策がコロナに対する差別や偏見をもたらしていると話す。
「日本の感染症対策は、感染症から患者や家族を守る以前に、社会全体を守ることを優先してきました。戦前においては、らい予防法によりハンセン病患者の強制隔離が定められ、隔離が病気に対する差別や偏見、恐怖心をつくっていったのです」
■「懲役」に元患者ら反発
戦後は、憲法に基本的人権の尊重が明記されたが、「公共の福祉に反さない」という条件がついた。それが社会全体の安全のためには個人の人権が制約されても仕方がないと解釈され、1996年のらい予防法廃止まで90年にわたり患者の隔離政策が続き、病気に対する差別や偏見が残ったと言う。