肝心のワクチン接種も日本は出遅れている。
それでも、菅義偉首相は29日、世界経済フォーラムの会合「ダボス・アジェンダ」で、東京五輪について「世界の団結の象徴」と述べた。最大の選手団を派遣する米国のバイデン大統領と28日未明にした電話協議では五輪を議題に乗せられなかったが、別の形で開催意欲を世界に示した。
開催にこだわる理由の一つが、訪日外国人客(インバウンド)の回復だ。ただ、コロナ禍が収束しなければ、その数は限られる。しかも、みずほ総合研究所の経済調査部主任エコノミストの宮嶋貴之氏は指摘する。
「12年ロンドン五輪時に英政府がインバウンドについての検証を行っています。混雑や宿泊費高騰などへの懸念から、五輪以外の目的の観光客は増えず、むしろ減りました。過去の五輪開催国を見ても、五輪開催と外国人訪問客数に強い相関があるとは思えず、五輪でインバウンド特需があると考えるのは誤解です」
さらに無観客開催ならインバウンドはゼロ。900億円のチケット収入もなくなり、税金で補う可能性がある。
再延期が現実的な選択なのか。元都職員で、東京五輪招致推進担当課長だった鈴木知幸氏(国士舘大学客員教授)は「来年への延期はまずありえない」と話す。
「五輪延期の際に世界陸上や世界水泳を延期してもらったのに、もう1年延期を頼めば、さすがにIOC構成メンバーの国際競技連盟であっても受け入れられないでしょう」
次回24年大会への“スライド”を求める声もある。だが、24年はパリ、28年はロサンゼルスに決定済み。パリは1924年大会以来1世紀の節目として手を挙げた。ロサンゼルスはパリに譲る形で28年に落ち着いた。決定は動きそうにない。
タイムズが21日に報じた、「日本は開催都市が決まっていない32年大会への立候補を目指す」ことが最善の案に見える。