私は、バイオリニストで優雅な美しい奥様のファンでしたが、残念ながら長崎へ御夫妻でキリシタンの取材に出かけられる前夜、なかなか寝室にもどられないのを案じて加賀先生が階下のバスルームに見に行くと、そこで倒れていらっしゃいました。加賀先生はお医者様ですから、すぐ救急車を呼び、自らも人工呼吸を試みられたようですが、帰らぬ人となられました。
葬儀はイグナチオ教会で親しい神父さんの手で行われ、奥様の亡くなられた経過を、実に冷静に加賀先生が説明し、医者ならではの客観的な淡々としたお話に、出席者一同感銘を受けました。
その後も、加賀先生は毎年夏は我が家のパーティーへ。
フランス留学でお手のものの「枯葉」「街角」などシャンソンを歌い、私もおぼつかないフランス語で唱和した想い出!
最後はベランダで一列に並んで、線香花火大会。誰が一番長持ちするか、松葉のような火花が消えかけては開き、最後は丸い火の玉が闇に吸い込まれていく……のでした。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年2月10日号