菅義偉首相が「感染対策の決め手」と位置づけるワクチンの確保が「失敗」とは、ただごとではない。政府は6月末までに全国民に提供できる数量のワクチン確保を目指すとしており、これまでに3種類のワクチンについて供給契約を結んでいる。米ファイザー社製約1億4400万回分、米モデルナ社製約5千万回分、英アストラゼネカ社製約1億2千万回分の計3億1400万回分だ。ワクチンは1人2回接種するので、日本の人口約1億2千万人分をすでに上回る。どのワクチンも、開発の成功や国内の承認が前提だが、額面だけをみれば全国民に行き渡るだけの十分な量を確保しているように見える。ところが、実際にはそう簡単なものではないという。

「日本が結んだ契約は供給期限や供給量などの大枠しか定められておらず、他国が結んだ契約のように、途中段階の供給量や時期など細かな決まりがない。そのため次回以降の見通しを立てようがないのです。それに、ファイザーとの契約は供給時期が『年内』となっており、政府が目標とする『6月末まで』の記載はありません。現在行われているE‌U圏外への輸出規制に対抗できる条項もない。6月末までに全国民分を確保するなど『とても無理』というのが多くの官僚の本音だと思います」(前出の政府関係者)

 これが本当なら、これから始まる接種は、政府の計画どおりには進まない可能性が高い。

 厚生労働省などが1月に示した接種スケジュールによれば、まず、2月17日にも医療従事者1万~2万人向けの先行接種が始まり、3月中旬に医療従事者ら約370万人の接種がスタートする。

 その後、3月下旬から高齢者約3600万人、4月以降に高齢者施設の従事者約200万人や基礎疾患のある人820万人の接種が段階的に進められる。医療従事者や高齢者らを除く一般の国民はそのあとだ。

河野氏は2月16日の会見で、15日にはワクチンの第2便がEUの輸出許可を得て、翌週には日本に届くと語ったが、数量などの詳細については語らなかった。ワクチン確保の日程については、「政府の基本的な対処方針は令和3年前半までに国民に必要な数量のワクチンの確保を目指すということで変わっていない」とした。一方、「確保を目指すと語っているわけで、接種の時期について申し上げたわけではありません」とも語った。

また、東京五輪の開催前までに国民への接種が間に合わなかった場合について問われると、「五輪については橋本(聖子)大臣にお尋ねをいただきたいと思います」。希望する全国民が接種を追える時期については「現時点では定かではありません」とした。(本誌・池田正史/今西憲之)

週刊朝日  2021年2月26日号を一部加筆修正

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今西憲之

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大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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