森翁の女性蔑視は骨がらみだから死ぬまで治らないし、そもそも失言したとは思っていないから、なぜこんなに世間が騒ぐのかと、本人は高をくくっていたらしい。だから翌日の謝罪会見がおもしろかった。はじめのうちこそ、森翁はしおらしくいたが、会見が進むにつれて憮然とした表情になり、質問者の言葉を途中で遮ったりした。
「辞任する考えはない」「老害、粗大ゴミになったのなら掃いてくれればいい」と開き直り、あげくに「おもしろおかしくしたいから訊いてんだろ」と逆ギレしたのには感心してしまった。もうけっこうな齢だから惚けているのだろう、とわたしは思っていたが、受け答えはまともで、赤と白の派手なネクタイもよく似合っていた。なかなかの人物ではある。
森翁の会見も大したものだが、二階自民党幹事長の会見もすごかった。大会ボランティアを辞退したいという声に対して、「落ち着いて静かになったら、そのひとたちの考えもまた変わるでしょう」と他人事(ひとごと)のようにいい、「どうしてもお辞めになりたいのだったら、また新たなボランティアを募集するとならざるを得ない」と、これまた開き直って見せたから付ける薬がない。善意で参加するボランティアへの敬意はたぶんないのだろう。
オリパラ大会組織委員会の会長職は森翁のオモチャであり、誰がそのオモチャを取りあげるのかと見ていたら、今日(11日)、本人が辞任を申し出た。首相も幹事長もホッとしているだろう。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年2月26日号