指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第58回は、「『鶏口牛後』で行こう!」。
【写真】肩甲骨の動きを意識しながらトレーニングする小堀勇気選手
* * *
受験や就職など岐路に立つ選手たちに、鶏口牛後の話をすることがあります。鶏口は先頭、牛の尻を表す牛後は末端の意味。大国の属国よりも小国の王でいたほうがいいという中国の「史記」に出てくる話に由来することばは、大きな組織の末端にいるより小さな組織のトップでいたほうがいいということです。
私は中高一貫の早稲田中学・高校の水泳部で自由形短距離の選手でした。水泳が速くなりたい一心で練習しましたが、中学3年のとき、あと0.1秒で全国大会出場を逃しました。高校に進むとき、水泳を頑張るために別の学校に行ったほうがいいのかなと悩みました。
そのとき考えたのが古文で習った鶏口牛後です。環境を変えて水泳の強い高校に行けたとしても、自分がトップでできるわけではない。それよりも練習を頑張っているチームメートと一緒にできることを模索したほうがいいのでは、と。
高校では水泳部の仲間とどうやったら強くなるか考えながら練習して、自宅近くのスイミングクラブにも通って水泳に打ち込みました。高校時代の経験は、今の仕事にも生きています。
みんなと同じことをやって満足していては世界のトップには立てません。所属するグループの中のある分野は自分がリードするという気概を持てば、自分が何をすべきか、何をしたいのかをよく考えて、前向きな気持ちが生まれてきます。「鶏口となるも牛後となるなかれ」は、練習に対する心構えとしても通用する考え方だと思っています。
長野県東御市の準高地で行っている合宿は順調に進んでいます。2月の第3週から陸上トレーニングの内容を変えました。肩甲骨の動きに焦点を当てたエクササイズに、しつこく粘り強く取り組んでいます。