競泳は4種目とも腕のかきで大きな推進力を生みます。しっかり水をとらえてかくためには腕の小さな筋肉だけでなく、肩甲骨を連動させて背中の大きな筋肉を使うことが重要です。
今回は肩甲骨を下に引きつける前鋸筋(ぜんきょきん)や中央に寄せる菱形筋(りょうけいきん)の動きを意識してトレーニングのプログラムを組んでいます。水泳における陸上トレーニングは、水の中で使う筋肉を鍛えるのはもちろんですが、陸上でその動きを意識して水の中で自然と動くための導入のような意味合いもあります。実際に選手たちの泳ぎに変化が見られました。
泳ぎの中で肩甲骨を下に引きつける動作はとても大切で、私の友人でブラジルのアリソン・シルバコーチを招聘してスプリントグループの指導をしてもらったときは、「ロングネック」という表現で選手を教えていました。肩甲骨を下げると首が長く見えるのです。
2012年ロンドン五輪女子100メートル背泳ぎ銅メダルの寺川綾も肩が上がることが多く、スポンジにひもをつけ腰に結びつけて泳ぐ練習を繰り返しました。水をふくんだスポンジを引っ張る負荷がかかり、肩甲骨を下げてしっかり水をかく動きが身につくのです。「肩甲骨の下のところが痛い」と言うので、それは狙い通りと説明しました。
補強トレーニングの狙いが明確だと効果は出やすいのですが、同じ筋肉ばかり使ってダメージを負うことは避けなければいけません。やりすぎは禁物です。
(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
※週刊朝日 2021年3月5日号