震災10年の「これから」がスタートした。だが、被災地の課題は山積している。そんな中、歴史ある村の住民と新たな移住者が「分断」を越えて村づくりに挑む。AERA 2021年3月29日号の記事を紹介する。
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福島県飯舘村のホームページをのぞくと、動画「飯舘村 これからの歩み」が見られる。
10年前の震災で壊れた家の画像に始まり、全村避難する住民。除染、畑に積まれたフレコンバッグ。7年目の帰還を機にBGMがテンポアップすると、戻り始めた飯舘牛、名物の花々と野菜が映し出され、子どもたちの餅つき、100人を突破した若い移住者たちの笑顔につながる。
3分余りの動画を作ったのは、仙台市生まれの松尾洋輝さん(25)と勇輝さん(23)兄弟だ。二人は昨年秋、村の廃校利用プロジェクト企画に参加したことをきっかけに、年明けの1月に同村へ移住。ともに東北高校出身のプロゴルファーだが、動画配信する会社も運営していた。
そんな経歴を知った杉岡誠村長(45)が「これからの飯舘」の映像化を依頼したのだ。東日本大震災から10年の今月11日に公開された動画は、1週間で再生回数が700回を超えた。
全村避難が一部地域を除いて解除されたのは2017年3月。以来4年経ったが、21年3月1日現在の村内居住者は1481人と、震災前の約6200人の2割強にとどまる。ただ、このうち186人が新たな転入者だ。
■村外避難者の強い思い
AERA本誌20年10月5日号でも詳報したが、杉岡村長は避難者の帰還が伸びない中で、様々な策を講じている。松尾兄弟のような新住民が増えていることについて、「住まいがどこにあろうと『ふるさとの担い手』として力を貸してほしい」と、新旧村民の連携にも期待する。
村外に避難したまま還らない村民への思いも強い。日本記者クラブが2月上旬に開いたリモート会見で村長は、「飯舘牛をはじめ、飯舘農業の『種』を残し、いつか復活させる、との農業者の言葉を守る」として、全国に避難した農業者に、震災以来継続してきた支援事業の意義を強調した。