エッセイスト 小島慶子
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"「ダイアログ・ミュージアム 対話の森」存続のため、クラウドファンディングも行われている(クラウドファンディングサイト
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】「ダイアログ・ミュージアム 対話の森」存続のためのクラウドファンディング

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 今、あるミュージアムが存続の危機に瀕しています。「ダイアログ・ミュージアム 対話の森」。東京・竹芝にある、日本で唯一の多様性体験ミュージアムです。私は現在の形になる前から、19年来のファン。ところが昨年からコロナ禍で入館者が激減し、このままではミュージアムで働く障害者や高齢者の雇用が維持できない事態にもなりかねません。存続のためのクラウドファンディングも立ち上がりました。なんとしても乗り切ってほしい。なぜなら、これは日本を変えるかもしれないミュージアムだからです。

 ドイツ発祥のダイアログ・ミュージアムには、展示物がありません。あるのは、出会いと対話です。視覚障害や聴覚障害を持つ人たち、そして75歳以上の人々が、プロのアテンドとして来館者たちを新しい発見の旅に連れ出してくれるのです。参加者は、暗闇の中を歩き回り、音のない世界で会話し、年齢を重ねた人の生活を体験する旅を通じて、強者と弱者、頼る人と頼られる人の立場が逆転することを知ります。普段の生活では見えておらず聞こえていなかったものや、無自覚の偏見に気づくかもしれません。そして何より、めちゃくちゃ楽しい。人とつながることの豊かさを実感できます。子どもたちが多様性を学ぶプログラムとしても優れています。

 将来、日本各地にダイアログ・ミュージアムが出来れば、障害者や高齢者の雇用創出に加え、子どもたちの学びの機会も増やせるでしょう。そしてミュージアムの体験者が増えれば、同調圧力が強く、排除の力が働きやすい日本社会が変わるかもしれません。違いを知り、たたえ、楽しむ知恵が詰まっているのです。

 今は感染防止対策をとった特別プログラムを開催しているので、可能な人は竹芝で実際に体験してみてください。そしてぜひ、クラウドファンディングで支えてほしいです。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年3月29日号