大学病院の病棟の廊下を教授が多くのスタッフを従えて歩く――。そんなシーンを医療ドラマで見ることでしょう。そもそもこれはどんな目的で行われているのでしょう? 古きあしき慣例なのでしょうか? 近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、医学部の「当たり前」に疑問を投げかけます。
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医療ドラマでよく見られるシーンに教授回診があります。
大学病院には、教授をはじめ多くの医者と看護師が働いており、また、数多くの患者さんが入院しています。教授が中心となり、その横には看護師長、そして後ろには准教授から研修医までずらっと並んで入院患者の診察に回るのが教授回診です。
テレビドラマで見慣れたあのシーンは現実の世界でも存在し、医者たちが大名行列のように患者さんがいるベッドサイドを回ります。しかしながら、回ってこられる患者さんにとって教授回診は威圧感を感じるものであり、回診の朝からソワソワしている患者さんも多くいらっしゃいます。ドラマでは廊下を歩く姿が象徴的に描かれますが、当然ですが、教授回診の本来の目的は廊下を歩くことではなく、患者さんの診察です。
患者さんのもとへたどり着くと教授は診察を始め、診断、検査、治療方針などを担当医に確認し間違いがないかチェックしていきます。やはり、教授は知識と経験が豊富なので、これまで気がつかなかった治療のポイントが回診で改めて認識されるということもあります。
私は医者になって1年目から大学病院で研修していたので、この教授回診は当たり前の行事でした。
その教授回診のイメージがガラッと変わったのがスイスに留学したときです。
チューリヒで働く私の上司は世界中を飛び回る皮膚がんの世界的権威で、それでも毎週カンファレンスと回診は必ず行っていた立派な医師でした。
はじめての教授回診でとてもびっくりしたことを今でも覚えています。そのボスの回診は日本の教授回診と違い、圧倒的少ない人数で患者さんのもとを回っていたのです。
廊下を歩くのは、教授と病棟責任者の医師1人と留学生の私の3人だけ。
大所帯だった留学先の医局には医者が山ほどいましたが、実際に患者さんのもとを回るのはごくごくわずかな医師だけでした。